衆院文科委

 衆院文部科学委員会は20日、学長選考会議や監事の学長監視機能の強化を柱とした国立大学法人法改定案について参考人質疑を開きました。「国策への協力の観点から学長へのけん制を可能にするもの」(光本滋・北海道大学准教授)など、危険性を指摘する意見が相次ぎました。

 光本氏は、2004年の国立大学の法人化以降、文科省が統制を強めてきた経過を報告。法案は、中期計画の進行状況を監事が常時監視し、遅れがあれば選考会議に学長を「法令違反」として報告する仕組みになっているとし、「大学が自由な学問を行うことができなくなる」と強調しました。

 石原俊・明治学院大学教授は、教職員の投票結果が尊重されていた国立大学の学長選出方法が、法人化後は投票自体が廃止されたり結果が軽視されるようになったりしてきたと指摘しました。

 日本共産党の畑野君枝議員に石原氏は、監事や選考会議といったごく少数のメンバーによる監視や決定ではなく、教職員や学生の意見表明を保障する改革こそ必要だと語りました。

(しんぶん赤旗2021年4月21日付)

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【議事録】

○左藤委員長 これより会議を開きます。
 内閣提出、国立大学法人法の一部を改正する法律案を議題といたします。
 これより質疑に入ります。
 本日は、本案審査のため、参考人として、国立大学法人東北大学総長大野英男君、明治学院大学社会学部教授石原俊君及び北海道大学大学院教育学研究院准教授光本滋君、以上三名の方々に御出席をいただいております。
 この際、参考人各位に一言御挨拶を申し上げたいと思います。
 本日は、御多用のところ本委員会に御出席を賜りまして、誠にありがとうございます。本案につきまして、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じますので、よろしくお願いを申し上げたいと思います。
 次に、議事の順序について申し上げます。
 まず、参考人各位からお一人十五分以内で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑に対してお答えいただきたいと存じます。
 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て御発言くださいますようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、あらかじめ御了承願います。
 それでは、まず大野参考人にお願いいたします。
○大野参考人 皆様、おはようございます。東北大学総長の大野英男でございます。
 本日は、国立大学法人法の一部を改正する法律案の御審議に当たり、このような機会を頂戴し、誠にありがとうございます。左藤委員長を始め、衆議院文部科学委員会の委員の皆様に厚く御礼を申し上げたいと思います。
 私からは、まず、東北大学がそもそもどういう大学であるかを最初に御説明した後、意見を述べさせていただきたいと思います。
 東北大学は、今から百十四年前、一九〇七年、明治四十年でございますけれども、杜の都仙台の地に、東京大学そして京都大学に続く第三の研究型総合大学として創設されております。以来、研究第一、門戸開放、そして実学尊重の三つの理念を掲げ、世界をリードする研究成果を上げるとともに、多くの指導的人材を輩出してまいりました。
 研究第一の理念に関しましては、創設当時から、我が国の俊英を集める、それだけではなくて、世界からも広く優秀な人材を集めてきてございます。
 初代総長の沢柳政太郎は、新設された東北帝国大学理科大学に、実はアルベルト・アインシュタインをリクルートしようといたしました、破格の待遇で。残念ながらこれは実現しませんでしたが、アインシュタインがノーベル賞を取りました直後の一九二二年には、来日された折に本学を訪問して、愛知敬一あるいは本多光太郎といった本学を代表する教授たちと面談をしているところでございます。このスピリットが今でも生きているということでございます。
 第二の、門戸開放に関しましては、一九一三年に、本学は我が国の大学で初めて、女子学生を三名、入学を認めてございます。加えて、設立当初から、他の帝国大学が門戸を閉ざしていた、旧制高校以外の、例えば高等師範学校などの卒業生に門戸を開き、また、留学生も多く受け入れてまいったところでございます。
 このように、門戸開放の理念というのは、今の言葉で言えばダイバーシティーでございまして、本学はダイバーシティーを理念に掲げ、一世紀以上にわたって実践してまいったということでございます。
 第三の、実学尊重に関しましては、基礎研究から応用研究まで、研究成果を広い意味でのイノベーションにつなげてきた伝統、それを意味してございまして、社会を変革する駆動力が大学に期待される今、非常に、ますます重要になってきている理念だと考えてございます。
 東北大学は、現在、十の学部、十五の研究科、そして三つの専門職大学院、六つの附置研究所、そして病院で構成されていまして、学部学生が一万人強、正規学生の外国人留学生が二千人、大学院生も含めますと学生数は一万八千人、そういう規模の大学でございます。
 現在、日本を代表する研究大学には、世界の主要大学と伍して、グローバルな視点から更なる発展を遂げることが求められております。本学は、二〇一七年に、その第一陣となる最初の三つの指定国立大学法人の一つとして指定を受けているところでございます。
 この三月に、私たちは東日本大震災から十年を迎えております。東北大学は、東日本大震災の被災地の中心にある総合大学といたしまして、大震災からの復興を先導し、日本の再生の先駆けとなるべく、震災発生直後の二〇一一年四月には、いち早く災害復興新生研究機構を創設し、十年にわたって八つの大型研究プロジェクトや復興アクション一〇〇プラスなど、数多くの取組を推進してきたところでございます。東北大学にとってのこの十年間は、社会と共にある大学というアイデンティティーを確立した期間でもございます。
 このような社会課題に向き合う本学の成果を、持続可能でレジリエントなグリーン未来社会の構築に向けて生かすために、カーボンニュートラルもこれに含まれますけれども、この四月には、グリーン未来創造機構を創設してございます。二〇一五年には、国際社会では、持続可能な開発目標、SDGs、あるいはパリ協定、そしてそれに並ぶ世界の三大アジェンダの一つとして仙台防災枠組が制定されたところでございますけれども、これに関して、私ども、このグリーン未来創造機構において、人文社会科学も含めた総合知をもってアプローチし、多くのステークホルダーにも参画していただく、そういう機構にして、更にこの取組を発展させていきたいと考えております。
 震災復興は、元に戻すだけではなくて、若者の未来が輝くような形にしなければなりません。このために、この後で述べます成長する公共財としての研究大学が重要だと私ども考えるように至っております。
 私自身は、二〇一八年に第二十二代の東北大学総長に就任いたしました。それから三年間、特にこの一年余りは、コロナ禍の激動の中で、世界の研究大学に伍する研究大学として役割を果たすべく、日々取り組んでまいったところでございます。
 このような立場から、本日はお話をさせていただければと思います。
 さて、私が総長になって三年、今四年目でございますけれども、この間、私どものような研究大学は、成長する公共財になるべきであると常に考えて大学経営に当たってまいりました。それは、創立以来、未来社会に向けた変革とイノベーションを先導してまいりました東北大学が、成長する公共財として、持てる力を社会に役立て、社会からの支援も得て、我々自身も成長し、社会変革を先導する存在とならなければならないということでございます。
 世界に目を向けてみますと、研究大学がイノベーションを駆動する重要なプレーヤーやハブになっている例がございます。例えば、イギリスのケンブリッジ大学の周辺、あるいはアメリカのボストン、これはMIT、ハーバードが研究大学となるわけですけれども、そういう研究大学を中心としてライフ系のイノベーションエコシステムができ、大企業やスタートアップ、ベンチャーキャピタルも巻き込んで、大きなうねりが起こっているところでございます。
 このような社会との共創は、大学の規模の成長となって表れるわけでございます。実際、ケンブリッジ大学やオックスフォード大学は、過去十五年ほどでその予算規模を三倍程度に大きくしてきてございます。すなわち、社会との共創の拡大が大学の規模の拡大となって表れているわけでございます。これを、成長する公共財と私は呼んでいるところでございます。
 一方で、我が国の研究大学は、例えば本学は、この間に、十五年間で一三%の成長であって、このような役割を十分に果たせていないと考えております。日本の高等教育機関、特に研究大学の果たすべき役割についての認識がまだまだ変化をしていないということに加えて、様々な抑制的規制が課題であると考えてございます。
 私は、この知識集約型社会において、国立大学は、国のインフラとしての普遍的な教育、研究の使命に加えて、ポストコロナの予測困難な時代にあって、新たな価値を創造し、その応用展開によって社会変革、イノベーションを先導する、そういった新たな役割、これを、成長する公共財につながる大学の機能拡張と呼びますけれども、が求められていると考えてございます。
 国立大学法人が、そのような機能を拡張し、社会変革を駆動する成長する公共財となるには、迅速な経営判断に基づく自律的かつ戦略的な経営が必要になります。このために、多様なステークホルダーとの双方向対話を重視する、私の言葉で言いますと、エンゲージメント型経営を実現すべきだと考えてございます。そのような経営を進める中で、タイムリーに価値を創造して社会にお渡しし、その社会から相応の支援を得ることで、学生諸君も含めた一人一人の構成員が自由闊達に多彩な個性を発揮しつつ最大のパフォーマンスを上げ、更に大学自身も力強く発展していく、そういう好循環システムが実現されると考えてございます。そのための法的枠組みを是非実現していただきたいと考えています。
 今申し上げたエンゲージメントというものは、単なる対話という意味ではなくて、お互いがそれぞれに主体的に強く関与し、相互理解を獲得して責任を果たす関係を言っております。このような関係を構築していくには、法人としての積極的な情報公開や意思決定プロセスの可視化などを通じて、経営の透明性を高めるということを行うとともに、法人自身による是正の仕組みが内在化されたガバナンスを構築することが必要であると考えております。
 そのような観点から、今回、中期目標、中期計画に関しましては、簡略でストーリーを重視した公約にさせていただきまして、その指標の可視化によって結果責任を明確化するとともに、現在様々な形で行われている国による評価全体については、簡素化することが望ましいと考えてございます。今、実際、評価対応に費やしている法人のリソース、それを、多様なステークホルダーとの対話、エンゲージメントに振り向けることがこれによって可能となると考えております。
 より研究を志向する国立大学法人が、まず先頭に立って成長する公共財となり、世界の研究大学と伍していき、国立大学法人全体としての道を開いていく、そういうためには、法人の経営裁量を拡大する規制緩和、そしてそれに伴うガバナンス体制の整備、そして先行投資財源が不可欠であると考えています。
 従来型の共同研究を超えた他の組織との本格的共同事業や、そのためのジョイントベンチャー向けファンド、戦略的なアセットマネジメントなど、各種の社会共創事業に対して国立大学法人が出資可能になれば、国立大学法人の社会的貢献機能の大幅な強化による新たな社会価値創造につながり、さらには、これまで申し上げてきた、成長する公共財となるための財源の多様化にも資すると考えてございます。
 今回の改正により、この点が一歩前進いたします。積極的に未来を切り開く大学を後押しする、意義のある御提案と考えてございます。
 最後に、グローバルな視点について申し添えます。
 高等教育は、グローバルな視点で考えなければなりません。学生の獲得一つを取ってみても、世界からその大学に行きたいと思ってもらえるような教育と研究を行うことで、卓越した留学生を引きつけ、それがひいては我が国の若者たちにとって、その卓越した留学生がたくさんいるという環境を整えることによって、我が国の若者たちに格好の、切磋琢磨するグローバルな場の提供につながると考えてございます。
 その意味で、国立大学法人の環境を変える施策は、ポストコロナに向けて急激に変貌する世界の高等教育を見据えたスピードが極めて重要だと考えてございます。
 国立大学が、国内外の社会の変化に対応し、そして対応するだけではなくてその変化を先導できるように、今後も継続して、大学の変革や戦略的経営の観点から、必要な制度見直しを迅速に進めるべきだと考えております。
 以上、まとめますと、国立大学の自浄能力を高めるガバナンスの実現、そしてそのガバナンスを前提とした上で、自律性を高めた経営裁量の拡大により財務基盤強化を図ることを目指した今回の制度改革は、極めて時宜を得たものであると考えてございます。
 以上、本法案について、私の考えるところを申し述べさせていただきました。
 本日は、大変貴重な機会をいただき、誠にありがとうございます。(拍手)
○左藤委員長 大野参考人、ありがとうございました。
 次に、石原参考人にお願いいたします。
○石原参考人 おはようございます。明治学院大学の石原俊でございます。
 本日は、貴重なこのような機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
 社会学、特に歴史社会学を専門としておりまして、日本における大学ガバナンスの歴史や現状についても論文や記事を書いております。よろしくお願いいたします。
 今回の国立大学法人法改正の諸論点のうち、学長選考・監察会議の権限、役割と、大学ガバナンスをめぐる論点に絞って意見を述べさせていただきます。
 まず、学長選出方法等の変遷と題したチャートを掲載している資料を御覧ください。A3になっております。
 国立大学において、学長選出方法やガバナンスの在り方がこの十七年でドラスチックに変わった、百八十度とまで言わなくても百五十度ぐらい変わったということが御理解いただけることと思います。
 時期区分の1、すなわち一九四九年から二〇〇四年、半世紀以上に及ぶ国立大学の時代には、学長選考は、まず教員投票が行われ、その結果に基づいて、学内の最高意思決定機関である評議会が学長を指名していました。このシステムは、教育公務員特例法によって裏づけられていました。
 時期区分の2になりますが、すなわち二〇〇四年の国立大学法人化後、前回の重要な国大法改正、施行があった二〇一五年までの期間は、学長選考の在り方が大きく変わり、学長選考会議が学長を選考することになりました。学長選考会議の委員は、教育研究評議会と、それから法人化で新設された経営協議会からそれぞれ同数ずつ、そして役員会からも理事を数名加えることができると定められました。
 ここで重要なポイントは五点あります。
 第一に、この段階ではほとんどの大学で教職員投票は意向投票という形で残ったものの、学長選考会議が意向投票の結果を覆す事例が徐々に増えてきました。
 第二に、学長選考会議委員を送り出す教育研究評議会の評議員の何割かが、学長が指名した理事から選ばれるようになりました。
 第三に、経営協議会は、外部人材、すなわち政官財界出身者などが半数とされ、外部委員については学長が教育研究評議会の意見を聞いて任命する一方で、内部委員については全員が学長による指名で選ばれることになりました。
 第四に、全員が学長の指名によって選ばれる理事、すなわち役員会の構成員について、学長選考会議の委員の三分の一未満であれば占めてよいということになりました。
 第五に、学長選考会議に学長自身が委員として参加できるということになりました。
 まとめますと、時期区分2においては、学長自身が間接的に選んだ委員が過半数又はそれに近い割合を占める学長選考会議が、学長を選考する体制になったと言えます。
 そして、時期区分の3、右側になりますが、二〇一五年に前回の重要な国大法の改正、施行があってから現在までですが、2の時期に対して、主に次の四点が変わりました。
 第一に、これが最も重要な点ですが、教職員の意向投票等を廃止する大学が増えました。また、意向投票等を維持している諸大学においても、投票結果の尊重規定が廃止されていきました。その結果、学長選考会議の権限が強大化しました。
 第二に、これも非常に重要な点ですが、学長自身の権限が強大化したということです。一つは、学長の再任回数制限が撤廃されるなどして、学長の長期政権又は事実上の終身化さえ可能な大学が増えてきました。もう一つは、国大法と併せて学校教育法が改正され、各部局の教授会が、重要な事項を審議する機関から、学長に意見を述べる、あるいは学長や学部長の諮問事項を審議する機関に格下げされ、学長の権限が非常に大きくなりました。
 第三に、学長選考会議委員を送り出す教育研究評議会の評議員の多数を占める学部長などが、部局の教員投票、すなわち教授会メンバーの投票に基づくことなく、学長による直接の指名で選ばれることになりました。
 第四に、経営協議会の委員の過半数が外部人材とされ、政官財界出身者の大学経営への影響力がより強まりました。
 まとめますと、時期区分3においては、多くの大学で、学長自身が間接的に選んだ委員が学長選考会議の過半数を占めるようになったわけです。そして、学長選考会議と学長自身の両方の権限が更に強まった、そのように総括できます。
 さて、もう一枚の、お配りしている文字が並んでいる方の資料を御覧ください。
 今般の国大法改正案における学長選考・監察会議の権限、役割に関して、まず、評価できる点について述べさせていただきます。
 第一に、学長自身が学長選考・監察会議の委員になれないこととしました。
 第二に、学長が指名した理事を、学長選考・監察会議の委員に加えるときには、教育研究評議会によって選出された者に限ることとしました。
 第三に、学長が法令違反や不当行為をなしたとき、あるいは学長の解任要件に該当するおそれがあると認められる場合に、監事がこれを学長及び学長選考・監察会議に報告し、更に文部科学大臣に報告すること、また、学長選考・監察会議が学長に対して職務執行状況について報告を求めることとしました。
 さきのチャートで見ましたように、国立大学法人化以降、学長の権限はどんどん強大化する一方で、学長の過剰あるいは不当な権力行使に対する牽制機能の整備は著しく立ち遅れてきたと言わざるを得ません。
 したがって、今般の改正案の理念の部分、すなわち学長に対する牽制機能を強めるという方向性については、私は評価できると考えております。
 他方で、今回の改正案は、多くの点で限界、さらには問題を抱えていることも指摘しておきたいと思います。
 第一に、新しい学長選考・監察会議が、学長の違法行為や不当な権力行使を牽制できるのかという問題です。
 学長選考・監察会議の委員から学長自身を排除したことは評価できますが、これは現行の学長選考会議の体制が不適切なのでありまして、当たり前の改正であるにすぎないと言えます。
 さきのチャートで見ましたように、学長選考・監察会議の委員を選出する教育研究評議会において、評議員の多数を占める重要部局の長の選出方法が、学長による直接指名、専決になりつつあります。その他の評議員も、学長が直接指名した理事から構成されている状態は変わりません。同じく、学長選考・監察会議の委員を選出する経営協議会においても、その半数又は半数近くを占める内部委員が学長の直接指名である状態が変わりません。
 多くの大学において、学長選考・監察会議の過半数又はそれに近い委員が、学長が実質的に指名した人物で占められているたてつけ自体は変わらないわけです。
 第二に、学長の法令違反や不当な権力行使を監視するべき監事の役割が適切に機能するのかという問題があります。
 監事については、従来、学長の推薦を踏まえて文部科学大臣が任命するという運用がなされてきました。今後もそうした運用を前提とするのであれば、学長の意向を反映する形で選ばれた監事に、学長の違法行為や不当な権力行使の監視を任せられるのか、これは疑問なしとしません。
 昨年十月、筑波大学において、教職員からの意向聴取で約一・六倍の差をつけられて敗北した学長が、実質的に自らが任命した委員を多数含む学長選考会議によって学長に再任されました。その約半年前に、学長選考会議によって筑波大学学長の再任回数制限が廃止され、再任回数の上限に既に達していた現学長の再任が可能な状態がつくられていました。
 また、再任決定の五日前、筑波大学は文部科学省指定国立大学法人に指定されました。そして、学長選考会議は、学長の再任の理由として、国立大学法人筑波大学の卓越性を高めることができることを挙げました。
 しかし、指定国立大学法人の申請書類に記載された留学生数にいわゆる水増しがあるのではないかという指摘が、法律家や専門家を含む学内外の有識者から寄せられています。
 私は、ここでこの疑惑の内容について何らかの見解を述べるつもりはありませんが、重要な問題点として指摘しておきたいのは、本件について、本来役割を果たすべき学長選考会議や監事が何の発信も行っていないこと、また、本格的な調査に着手した形跡が見られないことです。
 第三の問題点として、学長がリーダーシップを発揮するために、学内の構成員、とりわけ専任、常勤の教職員と、そして在学生からの信頼が不可欠なことは言うまでもありません。
 ところが、今般の国大法改正案においても、学内の重要な構成員である教職員や学生が学長選考・監察会議や監事に対して意見を述べる仕組みについて言及がありません。
 先般、旭川医科大学の学長が、新型コロナウイルス感染者の受入れ方針をめぐって附属病院長や病院スタッフの多数と意見が対立し、実質的な学長の命令によって、かなり強引な形で病院長の解任が行われました。その後、旭川医科大の教員を中心として、学長選考における意向聴取対象者の過半数が、学長解任を求める署名に名を連ねました。
 この件はマスメディアで大きく報じられ、国立大学の学長が強大な権限や権力を持っていること、国立大学法人において学長に対する教職員からの直接的な牽制機能がほぼなくなってしまったことが多くの一般市民に知られることとなりました。
 チャートで見てきましたように、この二十年近く、大学ガバナンスに関しては、学長や学部長、病院長の選出における教職員投票等の廃止や、投票結果の軽視、教授会の権限の縮小など、とにかくトップダウン化がよいんだという考え方で、ボトムアップの意思決定や意見表明の回路をどんどん縮小してきたわけです。その負の部分が、旭川医科大の事例で白日の下にさらされたと言えるでしょう。
 旭川医科大の現状は、学長の意向と、それから教育、研究、診療の現場を担う教職員の多数の意向とが激しく乖離し、もはや修復不可能な水準に達していることを示しています。大学内部に日常的にボトムアップの意見表明や意思決定の回路が一定程度残されていたならば、学長はここまで信頼を失うことはなかったのではないでしょうか。
 以上、本改正案の限界や問題点について述べました。これを受けて、最後に、本改正案で果たされていない今後の課題について意見を述べさせていただきます。
 第一に、学長選考・監察会議の委員が、学長の意向を忖度する人物によって占められることのないように、透明性と中立性を持った方法で選ばれる仕組みをつくっていく必要があります。
 また、学長選考・監察会議が学長の法令違反や不当行為について認定を行った際、また、その結果として学長の解任等を行った際、公正性が担保されているかについて、学内構成員や市民が判断できる程度には情報公開が行われ、透明性が確保される必要があります。
 先般の北海道大学における総長解任の際には、学内構成員に対してさえ情報公開が不十分であったために、様々な疑念が広がる結果となりました。
 第二に、監事についても、学長の意向を忖度する人物によって占められることのないように、透明性と中立性を持った方法で選ばれる仕組みを早急に整備しなくてはなりません。
 昨年十二月に国立大学法人の戦略的経営実現に向けた検討会議が取りまとめた国立大学法人の戦略的な経営実現に向けてでは、監事について、「その候補者の選定に当たっては、多様なステークホルダーの協力・助言を得て人選を行い、その選定過程や結果を広く公表するなど、責任を十分に果たし得る適任者を選考するための適切なプロセスを工夫すべきである。」としています。
 また、学長や理事、その他大学執行部メンバーに法令違反や不当行為などがあった場合、コンプライアンス窓口やあるいはハラスメント窓口を通じて学内外からの申立てを受け付ける体制も早急に全国立大学で整備する必要があります。
 第三に、残念ながら少なくない国立大学で現在生じている学長と学内構成員とのコンフリクト、とりわけ教職員や学生と学長との間のあつれきを解消し、信頼関係を再構築していく必要があります。
 そのためには、これまで二十年近く大学ガバナンスのトップダウン化ありきの下に進められてきた政策について、反省すべき点は反省し、一定の軌道修正にかじを切るべきでしょう。つまり、ボトムアップの意見表明や、ピアレビューでの意思決定の意義を再評価し、大学ガバナンスの中に適切に組み込んでいく必要があるということです。
 そもそも、近現代の自由民主主義先進国において、大学のガバナンスのある部分は、トップダウン型の官庁や営利企業とは異なる特殊な構造を持ってきました。特に、教育内容、カリキュラム編成、研究内容、そして教員、研究者の人事、さらに、附属病院の場合は診療、臨床に関わる領域に関して、トップダウンの秩序が一定留保され、専門家集団による合議と相互評価、すなわちピアレビューによって意思決定を行う、いわゆるボトムアップ型のガバナンスが尊重されてきました。
 教育、研究、臨床、診療、そして研究者人事に関わる領域について、ボトムアップ型、ピアレビュー型の意思決定が尊重されてきた理由は、第一に、大学の外部の権力から自立した審査、評価、決定を保障すること、第二に、大学の経営陣の意向に忖度しない審査、評価、決定を保障すること、この二つの意味での学問の自由が守られるためです。
 学長は、研究者としてはあくまでも一領域の専門家です。学長が、例えば経営の観点を偏重したり、特定の学術分野を偏重又は軽視したりして、教育、研究や教員人事への直接介入を行うといった学長の不当な権力行使、これを排することは、国立大学における専門分野、学術領域の多様性を担保し、全国全ての地域の若者に多様な高等教育の機会を提供するために決定的に重要です。
 こうした観点に立つとき、学長に対する監視の権限を、学長選考・監察会議及び監事というごく少数のメンバーに集中させるだけではなく、教職員そして学生にも開いておくことが重要です。
 学長選考における教職員意向投票の意義については適切に再評価すること、学長の再任回数制限をしっかり設けること、あるいは教職員による学長リコール制度を整備することなどは、今後の重要な検討課題であると考えます。
 私の意見陳述は以上となります。本日は、貴重な機会をありがとうございました。(拍手)
○左藤委員長 石原参考人、ありがとうございました。
 次に、光本参考人にお願いいたします。
○光本参考人 おはようございます。参考人の光本滋です。
 本日は、本委員会におきまして意見陳述することのできる大変貴重な機会を賜りましたこと、委員長並びに委員の皆様に厚く御礼申し上げます。
 私は教育学を専門としております。特に青年期以降の人々の教育の問題に関心を持っておりまして、大学進学率も上がっておりますから、大学教育が若者や成人の教育的な要求に応えるものとなっているかどうか、それを支える法制や組織運営が適切であるかどうかなどについて、幅広く関心を持ち、研究をしております。
 国立大学の法人化に関しては、当初から、大学の経営の改革を目的とした法人化が、大学の研究、教育、学生、教職員にとってどのような影響を及ぼすのか、動向を追いかけてまいりました。現実には、法人化は大学にたくさんの困難を引き起こしています。よいことはほとんどなかったと私は思っております。あえてよい点を挙げるとすれば、現実、私のように国立大学に勤めている者の周りで起きている出来事と、教育制度という非常に抽象的なものがどうつながっているかということを絶えず考えさせられるという、そういった点では、非常に思考の材料を与えてくれたというふうに思っております。そういった成果は、本日の陳述の中でも発表してまいりたいというふうに思っております。
 さて、本意見陳述では、大きく三つの柱で意見を述べていきます。第一は、国立大学法人法制の運用において守られなければならない原則は何であるかということです。第二は、中期目標、中期計画及び評価の運用の実際がどうであったかということです。また、その問題点についてです。そして、第三は、今般の国立大学法人法改正法案の内容に関して懸念される点についてであります。
 第一の柱、国立大学法人法制において守られねばならない原則について。
 国立大学法人法第三条は、「国は、この法律の運用に当たっては、国立大学及び大学共同利用機関における教育研究の特性に常に配慮しなければならない。」としています。学問の自由の侵害につながることのないようにすることが大事だというのが条文の趣旨です。
 学問の自由の侵害といいますと、先ほど石原参考人が言われたように、国家による特定の書物の発禁処分とか、特定の教員を大学から追放するよう命ずるといったような、いわば直接的な介入がまず頭に浮かびます。
 しかし、国家による学問の自由に対する侵害は、直接的なものだけとは限りません。国が大学の組織を改廃することによっても、間接的に学問の自由の侵害は起こり得ます。
 私の専門領域を例にしますと、教育学者というのは政府の教育政策に批判的な研究者が多い、まあ、実際そうかもしれませんが、だから教育学者のいる組織を潰してしまえと政府が考えたとします。このとき、国立大学法人法の仕組みはとても利用しやすい面があります。文科大臣が大学に対して中期目標を与え、中期目標期間の実績に関する評価を行い、組織、業務の改廃の検討をするという仕組みになっていますので、中期目標に、教育、研究を社会的要請の高い分野へ転換することと書いて、評価を行い、教育学はどうも社会的要請が高いとは言えないというような評価を行ったとします。そうしますと、大臣自ら組織の改廃権を用いて組織を潰すということも可能です。
 このような仕組みが学問の自由を侵害する危険性があることは、法人化の過程で様々な関係者から指摘されてまいりました。その結果、本委員会など国会審議でも様々な議論が行われ、国立大学法人法自体は成立いたしましたが、さきの第三条の総則的な規定だけでなく、歯止めとして大きく四つの重要な事項が確認されました。
 その四つとは、具体的には、国立大学法人が中期目標、中期計画の原案を作成し、文科大臣は、財政上の理由など、真にやむを得ない場合を除き、基本的には国立大学法人が作った原案を尊重するということです。これが一点目。それから、中期目標達成のために必要な経費の確保、二点目です。国立大学法人評価委員会が行う中期目標記載事項のうちの教育研究の質の向上に関する評価はピアレビューによって行う、評価を適正に行うというのが三点目です。そして、組織、業務の改廃、大臣の権限でありますこの改廃の検討は大学自身が行うということが四点目であります。
 このようにすることで、法律上は大臣が持っている中期目標の策定、組織の改廃をする権限を形式化するというところにポイントがございます。
 今お話ししたような内容を図にまとめたものが、本日の配付資料の一でございます。ちょっと字が小さくて見づらくて恐縮でございますが、これは、文科省が国会審議の内容を忠実に評価のプロセスに反映しようとして作成した図でございます。
 そして、評価委員会が適切な評価を行い、その評価結果を、国立大学法人が作る中期目標、中期計画の原案に生かすことによって、大学が自主的な組織運営と改革を行えるようにしようとしたわけです。
 これらは、国立大学法人法の制定過程におけるいわば立法者意思です。政府、文科省は、これらに従い、国立大学法人法の解釈、運用を行っていく義務があると考えます。
 さて、第二の柱、国立大学法人法制の根幹を成す、今申し上げてきましたような中期目標、中期計画及び評価の仕組みというのがあるわけですけれども、その運用がどうであったかというお話でございます。
 法人化されてから既に十七年ほどたっております。国立大学法人の中期目標、中期計画は、これまで三回作られています。過去三回の中期目標、中期計画の策定、評価の過程には、いずれも様々な問題がありました。
 第一期目、まだ国立大学法人法が成立する前ですが、文科省が各国立大学に事前に詳細な指示をしていたことが国会で明らかにされました。当時の遠山文科大臣は、それまでの政府参考人の答弁の誤りを認め、訂正、陳謝しています。
 第二期目は、二〇〇八年、平成二十年から二〇〇九年、平成二十一年にかけて問題が起こりました。国立大学法人の第一期中期目標期間の五年度目、六年度目です。このとき、文科省は、第二期の中期目標、中期計画の原案は、第一期中期目標期間の実績に関する評価の結果を受けて各国立大学法人が自主的に作るとしてきたわけですが、先ほどの図のようにしてきたわけですが、途中でその方針を翻して、各大学の中期目標の原案作成過程に介入し始めました。
 当時の文科省が作成したもう一つの図があるので示します。それが資料の二でございます。
 文科省は、国立大学法人の中期目標期間に係る業務実績に関する評価結果、これは国立大学法人評価委員会が行うものですが、これと関わりなく、国立大学法人の組織及び業務全般の見直しという文書を作り、これを各国立大学法人に示しました。そして、これに基づき、中期目標、中期計画の素案、原案でなく素案を提出させたのです。そして、文科省は、この素案をチェックした上で、各国立大学法人に改めて原案を提出させます。
 国立大学法人法の制定過程において、形式化することを約束していた大臣の中期目標策定権、組織の改廃の検討の権限が見事に復活していることがお分かりいただけるかと思います。そして、書き直しの末、大学が提出した中期目標の原案の修正はもうほとんど起こりようがないということになったわけですが、果たして、これで大学が中期目標を主体的に作成していると言えるか疑問であります。
 第三期目の問題は、二〇一四年、平成二十六年から二〇一五年、平成二十七年にかけて起こりました。やはり第二期の中期目標期間の五年度目、六年度目です。基本的な問題は第二期のときと同じなのですが、このときの問題は大きな波紋を呼びましたので、皆さんももう御存じであろうかと思います。
 どのような問題であったか。当時の下村文部科学大臣が、二〇一五年六月八日に決定した国立大学法人の組織及び業務全般の見直しという文書の中で、各大学に対して、教員養成系、人文社会科学系の学部、大学院は、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めるよう指示したのです。この大臣決定は、文科省による人文系不要論とみなされ、強い批判を浴びました。私も、人文系不要論は誤りだと考えています。
 ところで、下村文科大臣の決定に関して見逃してならない問題は、これが国立大学法人法が定めた文科大臣の権限の行使であったということです。そして、このときも、国立大学法人評価委員会による各国立大学法人の第二期中期目標期間の業務実績に関する評価と関わりなく、先ほどの決定が行われているのです。
 このように、第三期の中期目標、中期計画の作成過程においても、大学の原案策定権が侵害されてきたわけです。
 以上のように、三期とも、国立大学法人の中期目標、中期計画は、いずれも文科省が評価結果と関わりなく作る方針により枠づけられてきたのが実態です。悪用すれば、特に悪用すれば、第三期のときのように、人文系不要論すらそこに押しつけられる危険性があるということを指摘しておきたいと思います。
 さて、三つ目の柱、今回の国立大学法人法改正法案の内容に関して懸念される事項についてです。
 本改正法案の内容は大きく四つに分かれておりますが、その中の一つが、中期目標の記載事項の追加並びに年度計画の廃止及び年度評価の廃止です。この部分の改正は、中期計画記載事項に、現在ある、教育研究の質の向上、業務運営の改善及び効率化とともに、これら二つのために取るべき措置の実施状況に関する指標を加えるというものです。また、年度計画、年度評価を廃止するとしています。
 先ほど大野参考人のお話の中にあったように、年度評価のための労力というのは大学にとって大変負担になっておりますので、これを廃止するのは問題ないかと思います。しかし、これは部分的改良にすぎないと思います。法案全体を見た場合、中期目標、中期計画を用いた政府の大学に対する統制が強まることは確実だからです。
 二〇二〇年、昨年十二月、国立大学法人評価委員会の総会に、第四期中期目標、中期計画に関する諸文書が提出されています。これらは、第四期中期目標期間が始まる二〇二二年、来年四月までの間に、文科省が各国立大学法人に対し何をさせるつもりかを示したものです。
 その一つが、資料三、第四期中期目標期間における国立大学法人中期目標大綱(仮称)(素案)です。第四期の中期目標は、国が各国立大学法人に対して個別に示すのではなく、総体として国立大学法人にまとめて大綱を示し、各国立大学法人はこの中から選び取っていくとされておりますが、資料三を見ていただきますと分かるように、大綱と言いながら、大変詳しい内容になっております。
 一方、資料四でございますが、国立大学法人の第四期中期目標・中期計画の項目等について(案)という文書では、今申し上げた大綱の素案に示されている項目のうち、五項目は必須であるとか、別途、計画や調書を出させるなどの細かな指示がこちらでもなされています。
 そして、資料五、国立大学法人の組織及び業務全般の見直しに関する視点、今後の、大臣が行う指示のいわば予告編でございます。
 そして、資料六、今後のスケジュールを示したもの等々が示されています。
 以上により、文科省はこれまでと同じく、第四期も国立大学法人が作成する中期目標の原案の内容を事前に規制しようとしています。その規制は、ほとんど選択の余地のないものであり、かつ詳しく行われています。さらに、法律に定めのない事項を中期目標に書き込ませたり、同じく法律に定めのない計画や調書まで提出させようとしています。
 要するに、現在文科省が行っていることは、中期目標、中期計画の原案作成プロセスに対する介入の拡大強化であります。国立大学法人法第三条や国会附帯決議に反するものだと私は考えています。政府にこのようなことを行う権限があるのか、また、仮に権限があるとしても、現在行っているようなやり方が適切なものなのか、法案の審議においてただしていただきたいと思います。
 関連して、改正法案が監事の権限を追加していることについて。
 監事が、学長に不正行為や法令違反等があると認めるときは、学長選考・監察会議に報告することを義務づけるとされておりますが、先ほど申し上げました中期計画記載事項とされる実施状況に関する指標に基づいて、学長がもし中期計画を順調に進めていないと監事が考えれば、これも法令違反とみなし、学長選考・監察会議に報告されるということになります。
 石原参考人が述べたような学長選考・監察会議の権限強化と並んで、文科省から中期目標、中期計画に関する規制を通じて持ち込まれた政府の方針を確実に実施するように学長を監察する仕組み、言い換えれば、国策への協力の観点から学長に対する牽制を行うことを可能にする仕組みではないかと思われます。
 このように、改正法案の内容は、大学の組織運営の自由を妨げるものです。大学が自由な学問を行うことを困難にし、ひいては社会的な責任を果たすこともできなくするおそれがあります。本法案の内容とともに、関連して政府が行おうとしている政策自体を見直す必要があることを訴え、意見陳述を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)
○左藤委員長 光本参考人、ありがとうございました。
 以上で参考人の方々からの意見の開陳は終わりました。
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○畑野委員 日本共産党の畑野君枝でございます。
 国立大学法人法改正案について、本日は、大野英男参考人、石原俊参考人、光本滋参考人におかれましては、大変貴重な御意見をお述べいただき、ありがとうございます。
 まず、光本参考人にお伺いいたします。
 先ほど、国立大学法人法制で守られなければならない原則についてお述べいただきました。国立大学法人が中期目標、中期計画の原案を策定し、文科大臣は原案を尊重することなどでございます。四点述べられました。
 それで、私は、国立大学法人の在り方としては、一般の企業経営とは違うということでずっと議論されてきたと思います。そうした観点から、なぜこうした原則が必要なのか、大学の現場の状況からもう少しお話しいただきたいと思います。
○光本参考人 ありがとうございます。
 なぜといいますと、根本的なところは、私、意見陳述の中で述べました、一つは、やはり大学というものが社会における学問の自由を保障していくための機関であるからというところに由来するものだろうというふうに思っています。
 学問の自由というのは、これは大学だけの特権ではなくて、言ってみれば国民の基本的人権ですから、本来は大学じゃなくても当然守られなければいけないわけですけれども、特にその専門的な教育、研究を通じて学問の自由が守られてきたということから、大学には大学の自治が保障されているところです。それを大学において十全なものとするということがやはり重要であるからというのがお答えになろうかと思います。
○畑野委員 そうしますと、更に伺いますけれども、こういう立場が大学の現場でしっかりと守られてきたのか、その点についての御認識はいかがでしょうか。先ほど幾つかお述べいただきましたが、加えてお話しいただければと思います。
○光本参考人 中期目標の原案に関して文科省が事前に規制を行ってきたということはお話ししたとおりですが、大学の現場におりますと、まず一番大きな影響は、予算を年々削減されてきたということです。これは先ほど大野参考人のお話にもありましたが、大体、法人化の間に一〇%ほど削られてきた。そして、その結果、特に教員の人件費が枯渇しております。
 北海道大学を例に取りますと、二〇一六年だったと思いますが、教授に換算して二百五人分の人件費が足りない、向こう五年間で二百五人分の人件費を、各部局と呼んでいますが、学部や研究科のスタッフを減らしていくというようなプランを前々任の総長が出しました。それが教職員の中では非常に大きな反発を招いたということがございます。
○畑野委員 先ほど、光本参考人は、教育研究の質の向上の評価はピアレビューを行い、組織、学部の改廃は大学自身が行うというふうにお述べになりました。
 今回の法律改正で中期計画に指標を明記するということになるんですが、これはどのようなことを意味するのでしょうか。
○光本参考人 ありがとうございます。
 指標を明記しますと、これは、ちょっと時間の都合で細かくお話しする時間がありませんでしたけれども、本日の資料につけております、国立大学法人の第四期中期目標・中期計画の項目等についてというこの表みたいなところ、ここに指標を大学が書き込んでいくということになります。そして、実際に何を達成するのか、達成の水準を示す、それからやるべきことを書くなどということによって、それができているかできていないかということで、いわば評価しやすくするわけですね。こういったことが、中期計画に記載事項が追加されたことで起こるんだと思います。
○畑野委員 そうしますと、懸念されることとして、先ほど予算の話がありましたが、この点についてはどのような懸念をお考えですか。
○光本参考人 予算との関係は、この文科省が示している文書の中にも多少書かれているんですが、中期目標の達成状況がやはり予算と結びついてくるということになりますので、例えば指標が達成できない場合、そのことが評価を下げ、そして予算の削減に結びつけられるということは大いにあり得ることかと思います。
○畑野委員 ありがとうございました。
 次に、石原参考人に伺います。
 今のことに関連してなんですが、先ほど参考人から、大学ガバナンスのトップダウン化ありきの下に進められてきた政策について、軌道修正にかじを切るべきだということをおっしゃられました。その中で、そもそも、自由民主主義先進国の大学における教育、研究、臨床、診療、教員、研究者人事領域について、ボトムアップ型やピアレビュー型の意思決定が尊重されてきた歴史的な意義についてお述べになりましたが、なぜこういうことが、今後の教育、研究について、国立大学法人について必要なのかという点について、少し具体的にお話しいただけますか。
○石原参考人 御質問ありがとうございます。
 国立大学の法人化のときに、責任と権限の一致ということのキーワードが出てまいりました。それまで、教授会とそれから評議会が非常に大きな権限を持っていて、学長の決定を縛るようなことが多かった。それに対して、教授会は権限はあるけれども責任は取らないんじゃないかという議論が当時ございました。それで、学長に権限と責任を集中させるという、これがガバナンスのトップダウン化の一つのスローガンだったわけです。
 ただし、それ自体、私は全面的に否定はしません。経営の観点から学長がある程度トップダウンの権限を持つことは重要だと思うんですが、国立大学法人化のときのたてつけとして、経営と、それから教育、研究、教学両方のトップを学長にしたわけですね。学長が非常に強大な権限を持っていて、当初の趣旨では、これは中教審の答申なんかにも何回も出てまいりますけれども、教育、研究に関してはボトムアップが、ピアレビューが必要なんだということはずっと中教審とかも言ってきているわけですね。
 ところが、現実にやはり起こってきたことは、教育、研究に関するボトムアップの部分に関してさえ、学長が経営者としての観点からどんどんトップダウン化をしてきた。それがやはりこの十七年の弊害の一つだったと思うんです。もちろん、全ての大学がそうではありませんけれども、少なからぬ大学でそのようなことがありました。
 そうしますと、御指摘のように、近代の大学というものは、やはり、大学の経営陣への研究者の忖度、それから、先ほど申し上げましたように、政治権力等への大学の忖度、これを防ぐために公共財としての学問の自由ということを保障する、ここがやはりなかなか果たされなくなってきている、これが現状の弊害なんじゃないかというふうに考えております。
○畑野委員 そうしますと、先ほども二〇一五年からの図をお示しいただきましたけれども、この間、学長権限の強化が更に図られてきたということだと思います。
 このことが今の大学の現場にどのような事態を引き起こしているかということは先ほどお話がございましたが、その点で、今後これを改善していくためには、本当の意味での学長への牽制機能を強化していくという点で、意向投票の話、あるいは教職員や学生の参加の仕方についてお述べになりましたが、これは具体的にどういうふうに進めていったらいいのか、何か御提案がございますでしょうか。
○石原参考人 ありがとうございます。
 意向投票については、先ほどもお答えさせていただいた点と重なりますが、どんどん廃止の方向にかじを切っているわけですが、先ほども述べましたように、やはり最も重要なステークホルダーである教職員の意見表明の非常に貴重な機会でありますので、これはむしろ私は大事にしていくべきだというふうに考えております。
 それから、やはり、学長と、それから教職員、あるいは学生との信頼関係が失われたときは、これは大学ガバナンス崩壊という状態に至ってしまって、これは非常に不幸なことですので、そうしたことがないように、例えば、本当に信頼を失われたときはリコールという制度をやはり整備していくべきで、ここには、教職員はもちろんのこと、学生も参加できるような意見表明の仕組みをつくるべきだと考えております。
○畑野委員 ありがとうございました。
 大野参考人に伺います。
 国立大学協会が、今年一月二十七日に、第四期中期目標期間における国立大学法人中期目標大綱(仮称)(素案)についての御意見を公表されました。いろいろな意見が学長さんから出たという報道を伺っておりますけれども、具体的にどのような御意見だったのか。また、大野参考人の御意見も含めて伺いたいと思います。
○大野参考人 ありがとうございます。
 先般申し述べましたように、私はここで国立大学協会を代表しているわけではございませんので、私の大学と私の見解を申し述べさせていただきます。
 今回の中期目標、中期計画の決め方に関して、その大綱が、まだ大綱の案でございますけれども、示されておって、今、二十五項目がございまして、指定国立大学法人はそのうちの二十一を選んで、そこで計画を、五十程度までであれば中期計画を立ててやってよろしいというたてつけになっております。
 これは、先ほど御質問の中で出てまいりました、国立大学の戦略的経営実現に向けた検討会議で議論されていた自律的契約関係、つまり、法人とそれから国の間をどう考えるか、それを自律的契約関係と捉え直そうという報告書になってございます。
 それは、ある意味、距離が離れますと、つまり国と法人が距離が離れますと、運営費交付金を措置している意義というのが、こういう意義で、こういうことをやってほしくて措置しているんだということが中期目標の大綱で表現される、今回は。その中で、我々が、では、これとこれとこれを選んで、しかし、この文言は私たちの中期目標としてはふさわしくないので、このように変えてほしい、変えるべきであると。そこで我々の意見が尊重されて、変えるというプロセスがこれから始まるんだと理解しております。
 そういう意味で、従前とは異なりますけれども、大学と国、今の場合には文部科学省ですけれども、が少し距離を置いた結果、こういうような仕組みを導入することになったというふうに私は理解してございます。
 以上でございます。
○畑野委員 ありがとうございます。
 大野参考人に、学長さんとしてもう一つだけ伺いたいんですけれども。
 今、本当に困窮学生の支援が求められておりまして、学費を半額にしてほしいという学生さんの声もありますし、食料支援など、本当に幅広い支援を大学も、東北大学さんもやっていただいているというふうに伺っております。
 そういう学生たちの今の学びを保障していく、そういう点で、是非大学としてこんなことを国に求めたいということがございましたら、一言伺いたいと思います。
○大野参考人 ありがとうございます。
 今般の、昨年から始まりましたコロナで、私どもは学生諸君に、アルバイトをしないでくれということを申し上げざるを得ない時期がございました。今、宮城県、蔓延防止等重点措置の対象になって、五月五日までですので、また少し状況が厳しいことになってございます。
 その中で、学生諸君に対しては、アルバイトができなくなるのに対して何らかの措置をしてほしいということがございまして、私たちとしては、特に在学生に関しては、新入生以外の学生に関しては、ピアサポーターということで、新入生、大学に入ってまだキャンパスに一度も足を踏み入れていない学生諸君にサポートしてくれ、その分対価は出しますということで、去年の話ですけれども、学内にそういうアルバイトの機会をつくって、それで最初のフェーズはしのぎました。
 加えて、四月二十八日だったと思いますけれども、緊急学生支援パッケージとして、本学では約四億円レベルの支援をいたしました。
 加えて、当時は国民一人当たりに十万円、さらには、学びの継続ということで文部科学省からも手当てをされておりますので、修学支援新制度も含めてありますので、私が今把握しているところでは、非常に困窮して困っているということはないとは思っていますけれども、これから感染状況が変わったりしたときに、今までと同等あるいはそれ以上の御支援を機動的にしていただきたいということは心から願っているところでございます。
 以上でございます。
○畑野委員 ありがとうございました。
 参考人の皆さんの御意見を参考に、今後議論を深めてまいりたいと思います。ありがとうございました。