衆院文部科学委員会は16日、小学校全学年の学級編成を35人以下とする義務教育標準法改正案の参考人質疑を開きました。3人の参考人全員が中学校、高校でも少人数学級を進めるべきだとの認識を示しました。

 東京大学の本田由紀教授は「世界水準では35人でも少人数学級と言えない」と日本の遅れた状況を指摘。少人数学級実現の速度を速め、早急に30人学級を実現するよう求めました。

 日本大学の末冨芳教授は「学校の歴史は感染症対策の歴史。コロナが終わっても感染症対策は終わらない」と強調。感染症対策の必要性は中高でも変わらないとし、少人数学級の取り組みを急ぐべきだと述べました。日本教職員組合の清水秀行委員長は、子ども一人ひとりにきめ細かな支援ができる少人数学級の利点を紹介。小学1~4年は20人、それ以上の学年は30人が望ましいと述べました。

 日本共産党の畑野君枝議員は、国が進めている学校統廃合の影響を質問。本田氏は、統廃合を進めたことで少人数学級の実現に必要な教室が不足する事態が起きているとし「推進ではなく見直しが必要。使われなくなった校舎の再活用も重要な方策だ」と述べました。

 他の2氏も「統廃合は軽々にすべきでない」(清水氏)、「人口が減ったから学校を無くしていいわけではない」(末冨氏)と応じました。

(しんぶん赤旗2021年3月17日付)

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【議事録】

○左藤委員長 これより会議を開きます。
 内閣提出、公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。
 本日は、本案審査のため、参考人として、日本大学文理学部教育学科教授末冨芳君、日本教職員組合中央執行委員長清水秀行君及び東京大学大学院教育学研究科教授本田由紀君、以上三名の方々に御出席をいただいております。
 この際、参考人各位に一言御挨拶を申し上げたいと思います。
 本日は、御多用のところ本委員会に御出席を賜り、誠にありがとうございます。本案につきまして、それぞれのお立場から忌憚のない御意見を述べていただければと思います。どうかよろしくお願いを申し上げたいと思います。
 次に、議事の順序について申し上げます。
 まず、参考人各位からお一人十五分以内で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑に対してお答えいただきたいと存じます。
 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て御発言くださいますようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、あらかじめ御了承願います。
 それでは、まず末冨参考人にお願いいたします。
○末冨参考人 皆様、この度は、公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律の一部を改正する法律案について真剣な御審議を賜り、大変ありがとうございます。
 それでは、早速意見を申し述べさせていただきます。
 私は、義務標準法を含む教育行財政研究の専門家でございます。
 本日は、義務標準法改正につきまして、学級編制の少人数化の必要性、三十五人学級の効果検証の在り方について意見を述べさせていただきます。
 資料の二ページ目に進ませていただきます。
 学級編制の少人数化の必要性につきましては、(1)から(4)の視点から、その必要性を申し述べさせていただきます。先生方が御案内の事項も多うございますので、少し駆け足で説明するところもございます。
 それでは、スライドの三にお進みください。
 (1)パンデミック時代の児童の安全確保。
 少人数学級は、全国知事会からの要望でも指摘されておりました、感染症対策としての重要性があります。
 新型コロナウイルスパンデミックから日本政府が何を教訓として導くべきかといえば、それは、学校教育の歴史もまた感染症対策の歴史であったということです。
 スライドの四に進ませていただきます。
 スライド四のグラフは、学齢期児童において毎年死亡例や重症例の多いインフルエンザ脳症の昨年度発症数を示したものですが、七歳や十三歳という学齢期児童の死亡例も確認できます。
 新型コロナウイルスとの戦いが終わるとしても、感染症との戦いが終わるわけではございません。限りある財源は、日本の未来を担う子供たちの生命と安全の確保のためにしっかりと使われるべきであり、少人数学級の推進は急務です。
 スライドの五番目に進ませていただきます。
 (2)物理的な学習教育環境の改善の必要性について述べます。
 児童一人一台のタブレットにより、教室や机が狭くなっています。写真を御覧いただくと、新JIS規格でも、タブレットを置けばテキストが落ちそうになっています。この問題を解決するために、机を広くする補助具も発売されておりますが、机を広くすれば、教員や児童が動ける教室面積は狭くなります。
 また、従来、学級人数が多いほどうるさいと児童が認識し、実は教員の声が聞こえていないのではないかという状況もございます。
 スライドの六にお進みください。
 既に教育再生実行会議でも指摘されていますが、GIGAスクールの推進により、従来の六十三平米若しくは六十四平米に電子黒板、タブレット保管庫等を収容すると、四十人の児童が十分なディスタンスを確保する条件では収容し切れなくなります。また、先ほど述べた机の補助具をつければ、児童が座ることができる面積が更に減少いたします。中には収納ロッカーを撤去する学校もございます。
 文部科学委員会の議員の皆様なら御了解いただけるはずですが、散らかった教室ではグループ活動などのアクティブラーニングに取り組みづらく、また、そもそも児童の集中力も低下いたします。
 次のスライドにお進みください。
 実際に、国立教育政策研究所の研究では、持ち物が収納できない教室ではアクティブラーニングに取り組みづらいと教員が認識し、特にそれは学級の児童数が多いほど顕著であることが把握されています。
 スライドの八にお進みください。
 また、コロナの前から、児童数が多い学級ほどうるさい、別の言葉で言うと、児童が教員の声を聞くために必要な音環境が保たれていないという問題が、建築学分野を中心に指摘されてまいりました。
 特に、聴覚障害を持つ児童や聴覚過敏の特性を持つ児童も同じ学級にいる中で、インクルーシブな教育環境のためにも、聞こえないという四十人学級、あるいはうるさいという四十人学級を放置することも許されないはずです。
 スライドの九に進ませていただきます。
 教育の機会均等は、自治体間の教育条件の均等化でもあります。これについては、今回の義務標準法改正の対象となります三十六人以上学級が都市部に集中していることが既に把握されています。
 皆様御案内の案件でございますので、教員確保策についてここでは意見を申し述べます。
 教員確保に際しては、小学校高学年専科教員の導入が不可欠です。
 また、多様な人材に学校で活躍してもらうためには、現在は都道府県しか授与権のない特別免許状を、政令市移管あるいは市町村具申権の拡大が必要と考えます。特に、人口が集中する政令市は、採用権、任命権が既に移譲されており、特別免許状の授与権も早急に検討する必要があると考えます。
 あわせて、教員免許更新講習見直し、また、教員が辞職や休職をする原因の一つとなっている教職員間ハラスメントの相談体制の充実、経済的なインセンティブにつきましては、例えば日本学生支援機構奨学金の減免措置等、前提としての働き方改革など、様々な手段が必要です。
 加えて、多様な教員の受入れに際しては、教員の性暴力対策等、児童の安全を守る体制の整備が急務です。
 スライドの十に進ませていただきます。
 教育の質の改善への対応、少人数学級でのきめ細かな指導体制につきましては、教員の負担を減らし、児童へのよりきめ細かい指導体制を可能にしなくてはなりません。
 文部科学省の推進する観点別評価は、子供一人一人を丁寧に評価する重要な手法ですが、それゆえに現職教員は成績処理が大変という意識を持っており、実際に、文科省の教員勤務実態調査では、多忙化の要因となることが実証されています。
 そちらを示しましたのが、次のスライドの十一になります。
 このスライドは、文部科学省の勤務実態調査で、成績処理が、教員の勤務時間差が大きく、この背景には学級のサイズの違いというものがあると考えられておりますので、改善されるべき実態を示しています。
 スライドの十二に進ませていただきます。
 (4)アクティブラーニング、個別最適な学びと協働的な学びへの対応については、文部科学省リーフレットに示されておりますように、一斉指導、個別指導、協働学習と、学習集団が柔軟に運用されることになっています。
 多忙な中でも、日本の学校の教員たちは、子供たちのために教員も学び、スキルを伸ばしたいという意欲を高めています。義務標準法改正により、人が増え、教員にスキル向上のための時間確保をすることが、ICT教育トップ国への躍進の条件でもあるはずです。
 ここまで、小学校での少人数学級推進が今こそ必要である理由について述べてまいりました。
 本意見陳述では小学校について述べてきましたが、中学校でも同様の課題を有することを付記させていただきたいと存じます。中学校少人数学級への投資も急がれます。
 スライドの十三に進ませていただきます。
 ここからは、三十五人学級の効果検証の在り方について申し上げておきます。
 専門家として最初に指摘しておかなければならないのは、クラスサイズの効果検証は、クラスサイズパズルとも呼ばれる難題であり、少人数学級にしたからといってすぐにテストスコアが改善するような簡単な問題ではないということです。
 ただし、より小規模な学級と比較したときに、四十人学級が児童の教育により効果的というエビデンスはありません。しかしながら、より精緻な検証が必要であることも確かです。
 これまでの国内研究では、少人数学級は、SES、保護者の社会経済的地位が相対的に低い学校に通う児童生徒において大きいことが分かっています。
 スライドの十四に進ませていただきます。
 国立教育政策研究所の調査分析でも、習熟度別編成より少人数学級の方が効果があるが、学年や学校規模等の影響もあるという結果になっております。
 クラスサイズパズルの解き方をどのように構想するかが教育の質を左右する重要な問題です。
 スライドの十五に進ませていただきます。
 三十五人学級の効果検証に際しては、クラスサイズパズルの解き方を間違えないということを強調しておきたいと思います。
 この図の青の点線の矢印が、今まで教育経済学や教育社会学で主流となってきた、学級規模とテストスコアとの関係を中心に検証しようとする分析のモデルになります。財務省の皆様もここに注目しておられたはずです。
 しかしながら、クラスサイズとテストスコアの関係だけに焦点化すると、教育の質向上のための学習プロセスの改善、検証がおろそかにされる懸念がございます。
 図の赤のくくりは、少人数学級という条件が児童生徒のテストスコアに結びつくまでのプロセスの検証こそが、教育の質の更なる改善のために重要な分析であることを示しています。学校経営、教室環境、教師の指導、児童生徒の学び、これらのプロセスの検証、改善こそが、我が国の教育の質を高めるためになくてはならないクラスサイズパズルの解法なのです。
 スライドの十六に進ませていただきます。
 前のスライドに示しました、より適切なクラスサイズパズルの解き方のためには、教育ビッグデータの整備と運用による教育活動の検証、改善が必要となります。
 重要なのは、学校現場や児童生徒、教職員の実態を把握した上で、教育活動の改善、必要なリソースの確保につながるエビデンスインフォームドな検証改善体制の構築になります。
 そのためには、学校データベース、教員データベース、児童生徒データベースを基盤とした検証、有効な学習方法等の分析が必要になります。
 日本の研究者が長年待望してきた教育ビッグデータの分析は、これまでにない精度での検証を可能にします。だからこそ、データと分析を現場の支援につなげていく体制の構築が重要なのです。
 スライドの十七に進ませていただきます。
 それでは、教育ビッグデータが構築される時代にあって、教育の質をどのように検証していくのか、このストラテジーこそ、少人数学級の効果検証のみならず、我が国の教育政策の成否を左右するコア政策だと言っても過言ではございません。
 教育の質を検証する際には、式に示しましたように、教員の質、教育活動の質、児童生徒の学習時間、家庭のSES等に着眼した分析が不可欠となります。
 教育の質につきましては、(3)教育基本法、教育振興基本計画に基づき、生きる力指標群(仮称)を通じた教育の質の改善、検証が必要であると考えます。
 テストスコアは重要な指標の一つではありますが、その成長の基盤ともなる非認知スキルや教師の効力感等、いじめなどの生徒指導関係指標等、ストレス尺度などの心身の健康安全に関する指標など、総合的な指標の中で子供たちの成長を検証していくことが、変化の多い時代を生きる子供たちの資質、能力の育成のために欠くべからざることと言えましょう。この考え方は、教育基本法第一条に示される理念の実現の上でも重要なものです。これらの指標群の検証のためには、研究者や専門家の活用戦略も必要となります。
 次のスライドに進ませていただきます。
 生きる力指標群の測定、検証は、教育ビッグデータの構築と、文部科学省の全国学力・学習状況調査や問題行動・不登校調査等の改善により可能です。
 さらに、これらの検証結果を学校評価にフィードバックできる仕組みを導入することで、ともすれば教育委員会や校長の勘と経験に依存してきた我が国の教育経営を、エビデンスの力もかりながら更にパワーアップできると考えます。
 スライドの十九番にお進みください。
 こちらは説明を省かせていただきますが、実際に生きる力指標群と類似の指標の運用、エビデンスインフォームドな政策が足立区において推進されており、既に事例はございます。
 スライドの二十にお進みください。
 教育の質を改善するための教員の質、教育活動の質、学習時間については、既にここまでで触れた内容もございますので、特に強調すべき内容のみ申し上げさせていただきます。
 教員の質の検証に際しては、適切な教員政策のために教員評価、処遇と連動させない客観的分析をする必要がございます。検証のない性急な教員政策の変更は、離職者増加や恣意的なデータ改ざんの原因ともなりかねません。着実な検証と改善のための必要条件となります。
 また、優秀な人材確保の方策に際しての検証も必要となります。
 そして、教育活動の質の検証に際しては、日本では、児童生徒の学習者特性に着眼した検証が必要とされる状況にあります。
 スライドの二十一にお進みください。
 先ほど、教育活動の質の検証に際しては、児童生徒の学習者特性に着眼した検証が必要だと申し上げました。
 図の上の方、矢印がある方を御覧ください。これは、PISAテストで、社会経済階層の下位五%に相当する生徒のスコアが矢印の根本、上位五%に相当する生徒のスコアが矢印の先となっています。日本は、下位五%のスコアも上位五%のスコアも高くありません。それが、日本のPISAスコアの社会経済階層による格差が先進国最小とされる理由です。
 スーパーサイエンスハイスクール政策と子供の貧困対策の二つの政府政策に委員として関わる研究者として指摘させていただくならば、日本はエリート政策も貧困政策も大きく成功はしておりません。PISAのレベル5、レベル6の高学力層のボリュームは、中国、韓国、シンガポールなどのアジア諸国の中ではむしろ少ないとも言っていいぐらいです。
 また、貧困層の子供への対策も十分ではなく、食事すら満足に取れず、低学年から授業が分からない層が日本全国にいます。こうした子供たちに適切な支援があれば、より高い学力を保障され、社会で一層の活躍ができるようになるはずです。
 スライドの二十二にお進みください。
 こちらが最後のスライドとなりますが、イギリスの政府系独立行政法人であるエデュケーション・エンダウメント・ファウンデーションが作成した指導方法改善のツールキットとなります。日本でも、学級標準の改正とともにこうした検証が行われることも重要です。
 エデュケーション・エンダウメント・ファウンデーションは、困難校や困難な地域に対し、研究指定校制度により直接支援も実施しており、少人数学級、GIGAスクール、教育ビッグデータの新たな時代の文科政策や地方教育委員会の支援機能の進化も期待されます。
 参考文献は、スライドの二十三、二十四に示させていただいております。
 駆け足の説明で恐縮でございました。
 以上で意見陳述を終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。(拍手)
○左藤委員長 末冨参考人、ありがとうございました。
 次に、清水参考人にお願いいたします。
○清水参考人 おはようございます。参考人の、日本教職員組合で中央執行委員長を務めております清水秀行です。よろしくお願いをいたします。
 初めに、三十五人学級実現への学校現場の思いについて述べさせていただきます。
 今回の義務標準法の改正案は、子供たちの教育の充実や教職員の働き方にも大きく関わる教育制度の改正であり、日本教職員組合が長年求めてきた課題であることから、何点かの要望も含めて、賛成の立場で意見を述べます。
 三十五人学級の実現は、学校現場が長らく渇望していた制度の実現であり、本法案で措置される小学校六年生までの完成については、一年でも早くの実現を望むところです。
 資料の二ページを御覧ください。
 資料が元号となっていますので、元号で述べてまいります。
 昭和五十五年度からスタートした第五次定数改善によって、中学校三年までの四十五人学級を四十人学級に切り替えていきました。
 私は、昭和五十八年度に千葉県の公立中学校に採用されました。そして、昭和六十二年までの五年間は四十五人学級で、担任も、国語の教科指導も行っていました。昭和六十二年度は一年四組の学級担任でしたが、生徒数は四十四人でした。その学年を持ち上がって二年七組の学級担任となりましたが、そのときの生徒数は四十人でした。学年全体も、六学級から七学級に一クラス増えました。まさに、昭和六十三年度は、私自身が四十五人学級から四十人学級への切替えを経験したわけでございます。
 第五次定数改善計画は平成三年度に終了しましたが、その後も、八年間の第六次定数改善がありました。そして、平成十三年度に四十人を下回る学級編制を可能とする法改正が行われて、五年間の第七次定数改善計画がスタートしました。
 私が、委員各位も十分御存じのこのような経過を述べさせていただいたのは、平成十七年度で定数改善計画が終わってしまい、せっかく国として進めてきた少人数学級推進の流れを止めてしまったということです。
 次に、少人数学級のもたらす教育的効果について述べます。
 第一に、何といっても目が行き届きます。
 私は、中学校の教員でしたから、その体験で、五人の規模縮小がいかに教育にとって意味があるかを述べてみたいと思います。
 学級担任として、各教科担任の授業での様子を聞き取ったり、あるいは朝の健康観察、昼の給食指導、一人一人をよく観察することができます。
 朝の健康観察ですが、学活で保健委員が行うことが一般的です。保健委員が、みんなに具合が悪い人がいないかを聞いて健康観察版にチェックし、担任のサインをもらって保健室に届けます。
 そのとき、私はちょっとした工夫をします。担任としても、当然、注意深く子供の健康観察を行います。そして、保健委員がサインをもらいに来たとき、何々さんと何々さんもちょっと気になるね、元気ないし、顔が少し赤いと思うけれども、どうと。保健委員は、その子たちのことも健康観察版に記入します。
 担任として、私は、養護教員にそのことを伝えておきます。その子が保健室に来室したときには、養護教員から連絡が私のところに来ます。後日、保健委員が役割を十分に果たしていると、学級の時間などでみんなに伝えます。
 学級担任は、こんな形で、一人一人の子供を見守ったり、自信を持たせたり、褒めたり、伸ばしたりしています。こういうことをする時間を、受持ちの子供の人数が五人少なくなると、その目は更に細かく子供たちに注がれます。
 給食の時間は戦争です。
 四時間目の残り二十分間、授業の空いている教員は、給食の食缶が上がってくるエレベーターホールに向かいます。喉が渇いていると、体育の授業の帰りに牛乳パックを一つ失敬したり、デザートのプリンを黙って持っていってしまったりする子がいるからです。
 何とかみんなの給食を死守しても、その後の配膳が大変です。割烹着を着たり、マスクをしたり、手洗いに行ったり、子供たちも大変です。授業終了から配膳完了までの目標タイムは二十分、食事が十五分、片づけて配膳車が配送車に間に合うようにするのに十五分。
 全員の配膳が終わったのを確認して、給食委員や日直がいただきますをします。勝手に食べてはいけないのです。それは、お行儀とか、一体感とか、感謝の気持ちだとかもいろいろありますが、一番の理由は、みんなに均等に食材が行き渡るためです。
 食材をよそうのを黙って任せていたら、カレーなどの人気のメニューは食べられない子供が出てきてしまいます。足りなければ、多くよそった子供のおわんから少しずつ集めていきます。一度口にしたり、勝手にルーをパンにつけたりしたら、もう集めることはできません。一人なら教員の分を分け与えれば済むかもしれませんが、それでは子供たちは育ちません。給食当番をずるする人は食べることができないこと、誤ってこぼしてしまい、隣の学級から、あるいは給食室からもらえないときには学級で譲り合うことしか解決方法がないこと、相手のことを思いやれること、食べ物のありがたさを感じること、その上で、楽しく食べることがいかに大事な人としての営みか、そういうことを学ぶのが給食の時間です。
 受持ちの子供の人数が四十人では、正直言って、給食は大変です。四十人は、トレーを持って歩くには窮屈過ぎます。四十人では配膳するだけが精いっぱいです。小学校一年生では、三十人だってかなりの困難を伴います。最初の二か月は、教員がもう一人ついて配膳ができるように指導しなければ、一年生の子供たちの給食は成り立ちません。五人少なくなると、担任はもっと、食べる様子からその子の食生活を推し量ることができます。人間模様をしっかりと見定めることができます。
 私は、四十五人学級のときから、一人一人の子供にきちんと接しているか、平等に接しているか、時々、一週間名簿にチェックして、確認をしていました。声をかけた子供、話した子供、遊んだ子供、部活動の様子を見に行った子供、家庭訪問した子供など、とにかく自分から関わりを持った子供の名簿欄に正の字を入れていくのです。次の日には別の名簿で行います。一週間たったら名簿を突き合わせてみます。思った以上に偏りがありました。二十人くらいであればそんなことはないかもしれませんが、三十人を超えたら必要だと感じています。
 私は、ずっと三十人以上の学級でしたので、二十人の経験はありませんが、これは大人の世界でも、会社でもそうではないでしょうか。同じフロアにいても一言もしゃべったことのない人は結構いるものです。
 私は、学級通信にこだわって毎日出し続けたことがありますが、学級通信に名前の載った子供も一か月同じようにチェックをしてみました。結果は、驚くほど偏っていました。相当に意識しないと、一か月一回も名前が出てこない子供もいました。
 第二に、教室が広く使えます。これは先ほど末冨先生からもお話があったとおりであります。
 現在の教室には様々なものがありますが、耐震工事によって鉄筋コンクリートが張り出している教室が今は多いです。委員の皆さん方も学校を見に行っていただければ。そういうことでも、学校の七掛ける八などの教室は、十分に広さを保っていません。
 第三に、授業の充実が挙げられます。
 発言回数は間違いなく増加します。体育や音楽、図工、美術、技術・家庭科では、実技、発表、展示、観賞、実習は充実します。反復練習や繰り返しの説明が必要な子供ばかりに目が行きがちですが、人数の少ないクラスであれば、理解の早い子供への対応も充実することができます。
 私は国語の教員でしたが、グループ学習をするのには三人が最適だということを、何回もいろいろなことをやって思いました。六人は非常に多いです。三人で話し合うと、いろいろなことが話し合えます。
 しかし、三人のグループが話し合ったことをクラスで発表するには、三人で、十班以上になってしまうんですね。それではとても時間が足りません。八班ぐらい、三、八、二十四人ぐらいが授業で三人を組むには最適な人数かと思っています。二十一人ぐらいが一番いいですが、三人の八班、これはグループ学習がとても有効です。
 クラス学級の場合には、逆に、六人の、あるいは五人の四班ぐらいが一番いいです。クラスの活動をするのも、四つの班が競い合ったり、その一つの班で、六人であれば男女で三人ずつ、あるいは三対二みたいな、そういった形で五人や六人の、クラスに四班ほどがあると、掃除であったり、先ほどの給食の時間であったり、様々なことが非常に効果的に行えます。そういった意味では、三十五人から更に三十人というのを希望したいというふうに思っています。
 各自治体における先行的な少人数学級の実施について述べます。
 資料の二ページを再び御覧ください。
 第七次定数改善が進行中の平成十五年度に、文科省は、学級編制の一層の弾力化を奨励する通知を出しました。そして、平成十六年度に、少人数学級実施のための加配定数の活用を可能とする方針が決定されました。
 それらを受けて、私の出身の千葉県では、平成十六年度に小学校一、二年生の三十八人学級が実施されました。また、平成十七年には中学校一年生で三十八人学級が実施されました。現在は、千葉県は、小学校一年生では三十五人学級、小学校二、三年生と中学校一年生では三十五人学級が選択できるように、その制度が導入されています。
 先ほど述べました少人数学級のもたらした様々な効果、そういったものをよいものとして少人数学級の進展を望む保護者や教職員の意見も踏まえて、各自治体は、加配の定数や独自の財源を使ってでも少人数学級による教育の充実に努めてまいりました。
 そして、平成二十二年度、二〇一〇年度からは、全ての都道府県で、国の基準四十人を下回る少人数学級が実施されています。
 しかし、これができたのも、まさに、この間、与野党の皆さん方が、教育を大事にして定数改善計画を続けてきたからこそ、また、加配という形で四十人以下の学級の編制が可能になるような、そういった人たちを学校に送っていただいたからであります。
 今回の義務標準法で、いわゆる加配定数をつけ替えて少人数学級を進行させるというお話でございますが、それは、クラスのサイズを小さくして、私が先ほど述べたようなきめ細かい指導のためには、人数が減ることはいいです。しかし、先ほど申し上げたように、小学校一年生には、給食の最初の二か月、もう一人の人が必要です。あるいは、授業で時間のかかる子供じゃない、伸ばしたい子供にも教員を一人つけることも大事です。現在行われているきめ細かな形での加配の人数、これについても引き続き定数として確保していただきたい、そういったことで是非お願いをしたいと思っています。
 最後に、この法案を是非早期に成立をさせていただき、学校現場に一人でも多くの教職員が配置されること、そして、教職員が、一人一人の子供に毎日、朝から晩までしっかりと目を行き届かせることができる、充実した授業ができる、そんな定数改善が行われるよう切に希望いたしまして、私の意見とさせていただきます。
 ありがとうございました。(拍手)
○左藤委員長 清水参考人、ありがとうございました。
 次に、本田参考人にお願いいたします。
○本田参考人 おはようございます。東京大学の本田由紀と申します。
 本日は、日本におけるクラスサイズの現状と課題というレジュメと、あとほかに二つ資料をつけてあります。これらを使って御説明していきたいと思います。
 私は、御存じいただけている方もいらっしゃるかもしれませんけれども、ほかの十二名の教育研究者とともに、昨年の七月から、少人数学級化を求める署名キャンペーンというのを続けてまいりました。この署名キャンペーンでは、二月半ばまでに二十四万四千筆以上の署名が集まっております。今日つけてあります資料の二つ目は、こちらの署名キャンペーンで昨年の秋に作成し無償配付しているパンフレットです。このパンフレットには、私ども呼びかけ人の基本的な認識を分かりやすくまとめてありますので、まずはそちらを使いながら、どういうことを考え、主張してきたかということを御説明していきたいと思います。
 まず、このパンフレットの二から三ページを見ていただきますと、なぜ少人数学級が必要であるかということについて、要点のみですけれども、まとめてあります。
 それらは、今現在求められる学びの質が大きく変容しているということ、また、児童生徒の中にも、ケアが必要な子供を含め、非常に多様化が進んでいるということ、また、教員の労働環境がもう限界まで悪化しているということ、そして、一斉休校の後に学校が再開した際に、分散登校という形で、半分に学級を分ける形で学校が始められました、その際の経験を踏まえて、あれがとてもよかった、本当によかったという保護者や児童生徒の、あるいは教員の声というものが非常に多いわけですね。それも踏まえまして、やはり少人数学級が必要だということを主張してまいりました。
 パンフレット四から五ページに関しましては、少人数学級に関する近年の研究をまとめてあります。
 これも御存じのことが多いかもしれませんけれども、少人数学級は学力にも効果があります。特に家庭の社会経済的背景が不利な児童生徒に効果があります。それだけでなくて、教師、児童生徒関係であったり、児童生徒相互の関係であったり、あるいは個々の児童生徒の心理状態にもよい効果があるということは既に明らかになっています。
 このように、研究の蓄積はありますけれども、まだまだ足りない点もありまして、例えば、近年の精緻な、計量的な検証においては、前年の学級規模が独立変数として使われることが多くて、個々の児童生徒がこれまで何年間にわたって少人数学級を経験してきたかというような長期的な効果に関しては、まだまだ検証が遅れているところです。
 重要なことを申し上げておきたいんですけれども、日本の少人数学級の効果ということに関して、学力ということが言われる場合が多いんですけれども、例えば、国際比較で見た場合に、日本の児童生徒の学力というのは、かなり高いところに、多少変動はあって一喜一憂されているところはありますけれども、総じて高いところに位置しています。
 日本の児童生徒が国際的に見て非常に大きな課題を持っているのは、そこに図一をつけてありますけれども、学力以外の、学びの意義の実感や、あるいは自由な思考を伸ばすような経験が明らかに不足している。これがこれから先の教育の変革に最も重要なことであって、こちらを従属変数として使った少人数学級の検証ということが必要であるというふうに考えております。
 次に、パンフレット六から七ページに関しましては、これまで、地方の努力によって、先ほど清水委員長からもお話がありましたけれども、加配や独自財源によっていろんな努力が続けられているわけですけれども、もうそれが限界に来ている、そのために非正規の教員が多数採用されて、不安定な中で担任を持ったりしている、そういう対応ではもう限界だということを、六から七ページでは述べてあります。
 ここまでがパンフレットの主な内容になります。
 もう一つの資料は、済みません、これは私が作ったものではないにもかかわらず、文科省が作成されたものなんですけれども、非常に重要な論点が多数含まれていると思いまして、今日、お配りしました。
 これは、少人数学級は必要ないのだという、端的に言いまして、財政制度審議会財政制度分科会における財務省側の資料に対して、興味深いことに、翌日に、文科省が即座に、機敏に全部反論したという、これに関しては私はすごいなと思って見ておりまして、そこに多数の重要な点が含まれております。
 レジュメの一ページの一番下に書いてありますけれども、私として注目したいのは、都道府県における学級規模のばらつきということ、そしてまた全国の一定の教育水準の均衡を図る環境整備が是非必要だということは、これはとても重要な論点だと思っております。これは、次の二の二で御説明します。
 ページをめくっていただきまして、レジュメの二ページになりますけれども、一の五に書いてありますのは、大変恐縮ではありますけれども、昨年十二月に今回の法案に具体化されている方針が発表されたときに、この署名キャンペーンの呼びかけ人で記者会見をいたしまして、そこで、私を含む数名で、その方向性に対して申し上げたことです。恐縮ですけれども、削減幅は少な過ぎる、スピードが遅過ぎる、学校段階が限られ過ぎている、教員の確保及び雇用労働環境改善のための方策が不十分過ぎる。
 つまり、今回の法案は、四十年以上ぶりに法律の改正に至ったという点で高く評価する方ももちろんいるのは存じ上げておりますけれども、目指すべき方向に照らしたときに、いかにも不十分である。これはもっとスピードアップして、もっと大幅にこの現状を改善していくということを、法案にも、例えば附帯決議だとかいう形で盛り込んでいただく必要がどうしてもあるというふうに私どもは考えております。
 次の二のところは、パンフレットでは十分に展開できなかった追加的な論点について、新しいデータも含めてまとめてあります。
 まず、二の一は国際比較を示してあります。これは、OECDのエデュケーション・アット・ア・グランス二〇二〇という一番新しい国際比較データを使いまして、小学校と中学校の平均クラスサイズを示してあります。一目瞭然で、日本は左端にあります。
 日本に関して目立つのは、オレンジ色の線で描かれている公立中学校に関して、国際標準と比べても極めて多いということなんですね。中ほどにOECDアベレージというのがありまして、これを見ると、中学校の平均クラスサイズは二十三人です。ところが、日本は三十二人という、中学校において、国際比較で見ると非常に大規模であるということにもっと注目していただく必要があると思います。
 こうしたクラスサイズに関しましては、先ほど、研究が既にかなりあるというふうなことを申し上げましたけれども、諸外国では、もう七〇年代から、研究の研究というか、どういう知見が蓄積されてきたかということに関するメタアナリシスという、これまでの研究で明らかになっていることを多数集めて分析するという形の研究が行われておりまして、有名なのがグラスとスミスによる研究ですけれども、それが次の、レジュメ三ページの図三につけてあります。
 二十人ぐらいよりもクラスサイズが減ると、小学校もそうですけれども、特に、中学校、セカンダリースクールにおいて学力が非常に改善する、学力だけではなくて、メンタルの状態であるとかも改善するということは、もう七〇年代の末から明らかになっております。それに基づいて、世界各国では、特に先進国では、学級規模を小さくしていく努力を必死で進めてきているわけです。
 ところが、日本は、図二にあるような、小学校はもちろん、中学校に関しては、ひどいと言っていいような状況にあります。これは、先ほど清水委員長からのお話にありましたように、これまで学級編制標準の改善が四十年間にわたり停止してきてしまったということがあって、この間に国際動向から日本は完全に遅れてしまっております。この、特に中学校段階の問題ということに関して、是非関心を持っていただきたいと思います。
 今のは国際比較ですけれども、国内比較を見ましても、先ほど、文科省の資料の、都道府県間のばらつきということを改めて図にしてみたものなんですけれども、これは、中学校に関して三十人以上の学級が占める比率を棒グラフで表しまして、オレンジ色の点は通塾率です。この通塾率に関して、回帰直線を引いてあります。グレーの折れ線が学力ですね。
 これを見ていただきますと、三十人以上学級の比率というものには都道府県間で非常に差があります。緩やかにですけれども、三十人以上学級が多い都道府県ほど通塾率が高いという右上がりの回帰直線になっています。つまり、学級規模が大き過ぎてきめ細かく手当てをしてもらえないものを、家庭が高額の費用を払って子供を塾に行かせて何とか補ってきたことによって、グレーの折れ線は、多少凸凹はありますけれども、そんなに都道府県間差が大きくないという結果になっております。
 つまり、申し上げたいのは、大人数の学級が多い都道府県では、通塾によってぎりぎり補っている、その負担、負荷というのは全部家計に押しつけられている、塾に行けないような子供たちはこの中で放置されている、こういう都道府県間格差が存在するということを示しています。
 次に、ページを繰っていただきまして、四ページの図五は、これは、学力だけではなくて、全国学力・学習状況調査で分かる都道府県別の自己効力感スコアの平均点と、やはり三十人以上学級比率との関係を散布図で見たものです。これは都道府県単位ですし、いろんな要因をコントロールしていませんので、粗い分析ではありますけれども、やはり大人数の学級が多い都道府県ほど生徒の自己効力感は低いのです、下がっています。
 粗い分析ではありますけれども、こういう既存のデータを生かした検証結果を見ても、やはり中学校に関しても、都道府県間のばらつきというか、むらをならす形で、より小さい規模の学級というものを実現していくことが必要であるというふうに考えています。
 次の二の三は、これは新型コロナウイルス感染症対策の観点ですけれども、感染症対策分科会の資料には、かなり教育施設でもクラスターは出ている、特に高校であるとかあるいは中学校でクラスターや感染者が出ているということが既に指摘されています。
 高校で部活動が原因とも言われたりしていますけれども、明らかになっている数だけ見ると、部活動によるものは四分の一にすぎません。つまり、高校に関して、四分の三は部活動以外の通常の学校活動の中で感染しているということが分かります。
 つまり、申し上げたいのは、感染拡大、クラスター発生予防の観点からも、高校においても、あるいは高校に次いで感染が多いのは中学校ですので、こういう、体も大きくなり、活動も活発になり、教室が混み合う度合いが高くなるような中学校、高校における少人数学級化が喫緊の課題であるというふうに考えております。
 二の四は、これは一月の中教審答申を示してありますけれども、このような方向で変革が必要だということが既に中教審答申という形で明らかになっております。
 特に、この答申では、高校の普通科改革ということが言われております。普通科改革を本当に進めていくのであれば、普通科以外の学科やコースに関しては、よりきめ細かい教育の在り方が必要になってきますので、これまでのような高校標準法を維持していては目指されている高校改革も実現できませんよということを申し上げたいと思って、触れておきました。実際に、図七では、ほかの多くの国においては、普通科の方が大きめの学級規模で何とか運営されているケースが多いです、ここには日本のデータはありませんけれども。
 つまり、普通科以外の様々な学科やコースをこれからつくっていくのであれば、高校に関しても、より少人数化が必要であるということです。
 次に、三に、これから求められる施策について、五点にわたってまとめてあります。
 まず、最も強調しておきたいのは、三の一にありますように、学級規模の縮小幅、スピード、ほかの学校段階、つまり中高について、より踏み込んだ施策ということを是非急いで進めていただきたいというのが、私ども署名キャンペーンの呼びかけ人の総意です。
 つまり、三十人学級、せめて三十人学級をこれから先どう実現していくかに関して、それをやっていきますという方針表明や、あるいは工程表を示していただきたいと考えています。
 小学校に関しても、学年進行に伴い五年間ということが言われておりますけれども、先ほども清水委員長がおっしゃったように、一年でも早くという切実な思いが学校の教育現場には充満しております。できるだけ早く、そのために、それが可能な自治体に対しては予算措置をするなどといったような施策が必要と思っています。
 中高に関しても、早急な少人数学級を是非方針として表明していただきたい。既に首相が中学校の三十五人学級について口にされたということは大変ありがたいことではありますけれども、これを是非具体化していただきたいと思っています。
 効果検証のために必要なことも幾つか並べて書いてありますけれども、これは末冨委員からもお話がありましたが、ちょっとかぶるところもありますけれども、もう時間もちょっとないんですけれども、まとめて申し上げますと、抽出調査にしていくということです。全国学力・学習状況調査というのは悉皆ですけれども、これは物すごくコストがかかっている割に分析が十分にされていない、役立てられてもいないということ、これを抽出調査にしていく。
 また、現在、過去にまだ一回しか実施されていないきめ細かい調査、保護者調査ですね、これをむしろ抽出調査に関して必ずやっていくようなことが必要です。教員調査も不可欠ですが、これは処遇に結びつかない形での教員調査が必要です。相対的な学力と絶対的な学力の基準ということを両方用いる必要がありますし、学級規模の経年把握や、あるいは多様な従属変数を使った検証が必要と思っています。
 あと、三の三が教員の確保策、三の四が校舎、教室の確保策、三の五が教育方法の改善に関してですけれども、もう時間が過ぎておりますので、ここまでにしたいと思います。
 駆け足で恐縮です。以上です。(拍手)
○左藤委員長 本田参考人、ありがとうございました。
 以上で参考人の方々からの意見の開陳は終わりました。
    ―――――――――――――
○左藤委員長 次に、畑野君枝君。
○畑野委員 日本共産党の畑野君枝です。
 本日は、末冨芳参考人、清水秀行参考人、本田由紀参考人に貴重な御意見をいただき、ありがとうございます。
 公立義務標準法の改正に当たりまして、幾つかの点について伺わせていただきます。まず、少人数学級の必要性あるいは効果について、それぞれ伺いたいと思います。
 まず最初に、現場をよく知っていらっしゃる清水参考人に伺いたいと思います。
 先ほどから幾つかの点でお話をしていただいておりますけれども、四十一年ぶりに小学校の一律三十五人学級へと進まれた経緯を、御自身の体験を踏まえてお話しいただきました。
 なぜ必要か。小学校で三十五人だけれども、その先、中学校あるいは高校、更に三十人学級、その必要性について現場からどのようにお考えになっているか、もう少しお話しいただけますか。
○清水参考人 まず、必要性については、効果ということは、私、先ほど意見を述べさせていただきましたが、学校現場の現状からいえば、まさに、様々なニーズあるいは様々な家庭、様々な教育の課題、これを解決するには、やはり四十人のクラスサイズは大き過ぎます。もうここは限界に来ています。いわゆる教職員の働き方についても様々な議論がこの間行われていますが、やはりもう少し、五人、十人、生徒数を減らしていくことが豊かな学びを展開するためには必要だということで、必要性ということでは、もう一度強調をしておきたいというふうに思います。
 以上でございます。
○畑野委員 ありがとうございます。
 本田由紀参考人からは、国際的な動向についてお話がございました。その点について、世界もこれに必死になって取り組んできたんだというお話がございました。その辺りの事情について、もう少し詳しく伺えますか。
○本田参考人 先ほど、レジュメに基づきながら申し上げましたけれども、ちょっと最初に申し上げておきたいのは、国際標準でいえば、四十人、論外です。三十五人ですら少人数とは言えません。三十人でようやくぎりぎり何とかという、そういう全世界的な、特に先進国における趨勢があると思います。それが図二とかに表れているわけですね。
 このエデュケーション・アット・ア・グランスでは、今日は図二しか示しておりませんけれども、どれぐらい各国が努力をしてクラスサイズを減らしてきたのかという経年比較ですね、この国ではこれぐらい減りましたね、この国ではこれぐらい減りましたねというところで、そういうグラフも出ているんですけれども。ある意味、それだけのプレッシャーをかけながら、少なく、少なく、丁寧に、きめ細かい、大事にする授業をということを、OECDを始め国際機関も、あるいは各国独自に、それぞれが追求してきたわけです。
 そういう動向に比較して、日本は、今回の法案は、一里塚という表現もありましたけれども、本当の僅かな前進でありますけれども、一体これまで何をしてきたのかというような、それほどガラパゴス的に立ち遅れた状況にあるというのが日本であるということは、これは銘記していただきたいというふうに考えております。
○畑野委員 末冨芳参考人に伺いたいのですが、今後の検討に関わってなんですが、クラスサイズパズルの解き方を間違えない、この点について、もう少し伺えますでしょうか。つまり、テストスコアだけでなく、それ以外の要素が必要だということをおっしゃっていらっしゃるのかと思いますけれども、新しい言葉ですので、教えていただけますか。
○末冨参考人 私の配付資料の十五ページ目に関わっての御質問だというふうに理解をしております。
 クラスサイズパズルの解き方を間違えないということにつきましては、一番気をつけなければならないのは、クラスサイズが小さくなれば、改善されれば、直ちにテストスコアが上がるというような発想を持つことには慎重であらねばならないということです。
 幾つもの学力向上、いわゆるテストスコア向上の改善に成功した学校の実証研究をなさいました大阪大学の志水宏吉先生の研究でも明らかになっておりますように、クラスサイズの改善、すなわち、教員を増やすことも大事だけれども、それとともに、何よりも、学校経営を通じて教職員あるいは地域、保護者が子供たちのためにお互いに力を出し合うというような協働的な雰囲気の育成、そしてその中での教職員の前向きなスキル向上、あるいは児童生徒一人一人への関わり方といった子供たちへの向き合い方、そして教え方の改善、校内研修の活発化ですとか、様々なプロセスがあって初めてテストスコアに結びつきます。
 私自身も経験的によく聞きますけれども、テストスコアが上がるのは、例えばですけれども、百メートルの競争でいいますと、第四コーナーを曲がってからだというふうに経験的には言われます。
 逆に言えば、その前の第一、第二、第三コーナーというのは、例えば虫歯の本数を減らすための生活習慣の改善、そのための保護者との連携、協働といったとても地道な努力によってまず実現され、その後に、先ほど申し上げたような学校内での取組が、教員がだんだんと地域との信頼関係を深めていくと元気になって、どんどん前向きに変化をしていく、やっと最後の第四コーナーを回ったところでテストスコアが上がるというメカニズムを理解した上で丁寧な検証を行わなければ、近視眼的に、何だ、効果が出ないじゃないかで終わってしまうということになります。
 以上のようなことから、クラスサイズの解き方を間違えずに、教え方ですとかあるいは教職員の努力がちゃんとできているんだというようなことをきちんと丁寧に検証するような取組が必要であるというふうに考えます。
 以上です。
○畑野委員 そこで、清水秀行参考人に、先ほど御発言された加配のことで伺いたいんですけれども、指導方法工夫改善定数、これは現場ではどのように活用されているのか、分かりましたら伺えますか。
○清水参考人 お答えします。
 その名前のとおり、指導、工夫、指導の工夫ですので、いわゆる学習の工夫であったり、生徒指導的な生活の指導であったり、各学校で必要な学年、必要なクラス、必要な子供に加配の対応をするというのが一般的に行われていることです。非常に幅広く各学校で活用することができるので、是非、この加配については、つけ替えでなくすことなく引き続き置いてほしいというのが各学校の思いであります。
 これが、国からの分が十分でないところは県や市が単独で置いたりしているというような状況でございますので、指導改善加配、多岐にわたって使えるということでございます。
 以上でございます。
○畑野委員 そうしますと、清水参考人、三十五人学級が今後進んでいったとしてもこの加配は必要であるということで、クラスサイズが小さくなってもこの加配の支援は必要だということでよろしいですか。
○清水参考人 私が三十年前に教員になったときには、いわゆる学級担任と副担任などという形で、中学校は十分に対応できました。
 現在は、百を超える教育と言われるものがあります。私のときには、お小遣いをどう使うか、お年玉をどう使うかという、お小遣い教育なんというものでしたが、今は、金融教育、カードをどうやって使うのか、十八歳はもう大人ですので、民法の改正もございますが、そういったことも全てやって、学校には百を超える何々教育というのがあります。
 そういった意味では、そういう形に一つ一つ対応は、一人の学級担任、一人の教科担任では無理で、やはりそれをフォローするそれぞれの、例えばプログラミング加配であったり、デジタル加配であったり、私はそういうことでも学校に置いていただきたいというふうに思っています。
 以上です。
○畑野委員 よく分かりました。百の内容があるということでございました。
 そこで、更に伺いたいのですが、先ほど清水参考人から統廃合の話がありました。統廃合しなければよかったというお話でございますが、その状況についてもう少し清水参考人に伺いたいと思います。この点については、本田参考人もレジュメに書かれていらっしゃいました。伺いたいと思います。併せて、末冨参考人からも、この統廃合の問題について伺いたいと思います。清水参考人からよろしくお願いします。
○清水参考人 統廃合につきまして、先ほどのお話は、新型コロナウイルスの感染症の三密を回避するために、統廃合したのをしなければよかったという国会議員の先生のお話から出たことでございますが。
 そもそも、私は、学校は地域のコミュニティーであると思っています。特に、小学校、中学校は、やはりそれぞれの市町村に適正な数の学校があることが大事で、各学校の給食室、大きな給食センターの方法もありますが、私は、各学校に自校方式の給食があって、災害のときにはそこにやはりみんなが集まるので、そのときには自家発電もできて、温かいおみそ汁が作れる、そういった給食室、子供だけではなくて。また、介護であったり、高齢者の方の施設も横に造って、その方たちの給食も学校給食の調理場で作るというような、そういったことを、地域のコミュニティーということでは、統廃合については軽々に行うべきでないと。
 もちろん、少子高齢化のことがございます、財源の問題がありますので、各自治体がそれぞれ検討委員会等を設けて、答申しながら、地域の皆さんの理解を得ながら進めることに反対はいたしませんが、地域のコミュニティーということを大事に、今まさに、新型コロナウイルスの感染症の中で、学校が地域のコミュニティーだということが再確認されたというふうに思っております。
 以上です。
○本田参考人 ありがとうございます。
 私のレジュメの七ページの三の四の一つ目のところに書いてありますように、清水委員の繰り返しになりますけれども、学校統廃合をこれまで進めてきたわけですけれども、それで今に至って、少人数学級化する上で教室が足りないといったようなことを言っているのは非常に残念なことですので、今このときに至って、学校統廃合を推進するのではなく、それは一旦見直す、停止して再検討するということが是非必要だと思っていますし、最近統廃合されて、まだ十分に使えるような施設、校舎などがある場合には、そこを再活用するということも、これから先の教室確保の、それだけで何とかなるとは思いませんけれども、一つの重要な方策だというふうに考えております。
 以上です。
○末冨参考人 学校統廃合の問題につきましては、教職員数が減少したり、あるいは地財措置上それほどの優遇がないということで、現実的な理由として、統廃合を選択されない自治体も多いです。
 ただし、私自身は、学校の規模に注目して、例えばですけれども、教育課程特例校を、もう少し柔軟にし、増やすような形で、小規模な学校であり、かつ特徴のある教育活動を行えるような学校をより設置しやすくすることで、統廃合というものを無理にしなくていいようにするという政策もあるいは必要だろうというふうに考えております。
 あわせて、日本には余りこの手の基準がないと思いますけれども、アメリカやニュージーランドでは、憲法に定める就学義務の保障上、これ以上学校を減らしてはいけないという基準を地理的に定めている地域もございます。
 特に、小学校だけでなく、中高の統廃合にも関わって、これは是非我が国の教育政策でも検討すべきであると考えているのは、人口減少時代にあって、これ以上学校を減らしてはいけないという、学びの保障の地理的な基準を国として検討すべきであろうというふうに考えております。
 人が減ったから学校を減らしていいわけではない。それは清水参考人もおっしゃいましたように、学校というのは地域にとってなくなれば非常に困るインフラであるということにも起因しております。
 以上のような考えを持っております。ありがとうございました。
○畑野委員 最後に、免許更新制について伺いたいと思います。清水参考人、本田参考人、末冨参考人、お願いします。
○左藤委員長 時間がありませんので、手短にお願いします。
○清水参考人 免許の更新制につきましては、この間、参考人の皆さんも申し上げているとおりで、大きな見直しをしていく必要があるということでございます。
 まず、学校現場のことでいいますと、五十五歳の方の、更新をせずに皆さん早期退職されてしまう、その最大の理由は、お聞きしますと、プライドだと言いました。十年目、二十年目のときに三十時間、その人たちと同じ。私はキャリアを積んできた、なのに、同じ三十時間、三万円を払って同じ講座を受けて、私のキャリアは何なんですかと。
 そういった意味でいえば、十年、二十年、三十年で、三十時間、二十時間、十時間とかそういったこと、最後の五年間、六十五までもし続けるのであれば、そこのところは更新はしなくていい、自動的に認められるというようなことがあってしかるべきではないですかというのが学校現場の教職員の声でございます。
 以上です。
○本田参考人 教員免許更新講習については、形式的であるということであったり、時間や労力などが取られるだけで有効性に非常に欠ける、にもかかわらず、それを受けないと失効してしまうといったような問題点が、既に多々現場から指摘されております。
 このような研修ではなくて、更新講習ではなくて、それこそICTであるとか、今現場に最も必要な、もっと実のある研修を行き渡らせることの方がどれだけ必要かという、そのためにも、失効を防ぐということと、その形式性の問題ということから、更新講習というのは、あるいは更新制そのものを撤廃すべきであるというふうに考えております。
○末冨参考人 今の本田参考人の意見とほぼ同様でして、教員自身が積み重ねてきた研修ですとか研さんを記録化することにより、教員免許の保持を可能にするという工夫は必要であろうというふうに考えます。
 以上です。
○畑野委員 どうもありがとうございました。