畑野氏が「中学校でも実施を」と菅首相の答弁を引き出したのは2月15日、衆院予算委員会でのこと。政府は2021年度から、小学校全学年を段階的に35人学級にする計画を決定。畑野氏は現場の声や国際比較を示して菅氏に迫りました。

 「中学校でも少人数学級を」―。切実な願いが、ようやく国に届きました。日本共産党の畑野君枝衆院議員の国会質問に対して菅義偉首相が、中学校でも少人数学級の実施を検討すると、歴代首相としては初めて明言。国や自治体に実現を迫る運動にとって大きな力となる首相答弁として、歓迎されています。

 (染矢ゆう子、堤由紀子)

 畑野 世界の流れは30人学級、20人程度の学級です。今回一歩踏み込んだわけですから、日本でさらに前に進むべきだと思います。小学校35人にとどまらず、中学校でも35人に進むべきではありませんか。

 菅 まず、この35人学級を実施する中で、少人数学級の教育に与える影響だとか外部人材の活用の効果、こうしたことについてしっかり検証を行った上で、その結果も踏まえて、望ましい指導体制のあり方についてこれから引き続きしっかりと検討していきたいと思います。

 畑野 そうすると、菅総理、その検討の中には当然中学校も入ってきますよね。

 菅 今、私、中学校を念頭に申し上げました。

 この答弁に先立って菅氏は、小学校の35人学級化で「子どもの状況を把握をし、一人ひとりにきめ細やかな教育が可能になると思っている」と教育的効果を認めていました。

 全日本教職員組合(全教)の調査では21年度、国に先行して16県3政令市が小3以降の35人以下学級を進めることが明らかになりました。檀原毅也書記長は「国が動けば大きく前進する。中学校も含め検討すると答弁させたことは、大変重要です」と言います。

 小学校では段階的な実施が実現されるとはいえ、予算案では教員はむしろ減らされ、教育予算も増えていません。檀原さんは「小学校でも中学や高校でも、さまざまな思いを抱える子どもの声を丁寧に聞き、ともに考えることがますます重要になっている」と指摘。「教育予算を抜本的に増額し、教員を増やして高校まで含めて少人数に踏み出すべきです。首相答弁はそれを求める上で大きな力になります」と話しています。

中学に入ると不登校激増
請願不採択の川崎市で 畑野質問を力に運動

 少人数学級を求めて、地方議会に意見書の可決や請願採択を迫る住民の運動が続いています。住民の願いに背を向ける事態も生まれる中、首相答弁を力にさらにとりくみをと動きが広がっています。

 2月12日、一刻も早い中学校の少人数化を求める請願が、川崎市文教委員会で不採択となりました。請願者はゆきとどいた教育をすすめる川崎市民の会。国への要望とともに市も独自の対策をとるよう、約1万2800人から署名を集め昨年末に提出していました。

 「少人数学級の大切さは市教委もわかっているはずなのに…」と言うのは同会の中学校教員、大前博さんです。不登校との関係で「中学校でこそ急がれる」と指摘。市教委の調査では、不登校の子どもの数が小学6年から中学1年になると急増しています。(グラフ)

 「勉強が難しくなり丁寧な対応が必要です。少人数なら、子どものつぶやきを拾って皆に返すキャッチボールもできる」。さらに高校入試や部活動など序列化しやすい環境を崩すきっかけになるとも。「一人一人の違いや面白さに気づけて、関係も親密になるんですね」

 同市では、少人数加配定数を使って少人数学級編成を行う指定研究を進めています。各校からの報告書にも良さが書かれています。

 ▽生活面について、特に効果が大きく、配慮を要する生徒にも、きめ細やかな対応ができる。

 ▽1学年次から採用し、一定の成果が上がったものなので、3年間継続して取り組んでいきたい。

 ▽少人数学級による学習指導、生活指導により、わかりやすい授業を実現でき、友人関係や生活態度が安定したことから、生徒が安心して落ち着きのある学校生活を送ることができた。

 大前さんは言います。「大切さを認めながら、子どもを置き去りにすることは許されません。国会答弁をばねに、とりくみを強めます」

中学に入ると不登校激増
大切な学びと人間関係を中学生が体験できる条件
神戸大学名誉教授 登校拒否・不登校問題全国連絡会世話人 広木克行さんに聞く

 中学校の少人数学級はなぜ大切なのか。登校拒否・不登校問題全国連絡会世話人の広木克行さん(神戸大学名誉教授)に聞きました。

 少人数学級の教育的効果は、コロナ禍のもとで昨年実施された分散登校の体験を通じて、改めて実証されました。子どもと親と先生たちから聞いた話を基に整理すると、少なくとも四つの効果を指摘することができます。

 第1は友達が増えたこと。第2は先生と話ができたこと。第3は授業が落ち着いたこと。第4は勉強が分かりやすかったことです。

「言葉交わす友達」

 分散登校では教室の生徒数が減ったのに、なぜ「友だちが増えた」と感じるのか。まず、この第1の効果から考えて見ましょう。

 子どもに聞くとそれは「これまで話せなかった人と話せたから」だと言います。多人数の時は、同じクラスでも互いにバリアを感じて話せなかったのに、少人数では言葉を交わして友達になれたという貴重な体験です。

 思春期の真っただ中で自己形成期の迷いに揺れる中学生にとって、多様な友達との交流から生まれる真の友との出会いほど、大切なものはありません。

 さらに話を聞いていくと、交流が始まった背後にはクラスの誰もが先生と話せた、という第2の効果があったことがわかります。

 先生と自分との距離が縮まると、クラスが自分の居場所と感じられるようになり、友達との間のバリアも気にならなくなった体験だと考えられます。先生のあり方は、クラス集団の質にとって非常に重要なのです。

 一人残らずすべての生徒が尊重されるクラスを作るには、少人数のクラス運営から生まれる先生の心のゆとりがいかに大切であるかがわかると思います。

「授業工夫できる」

 そして第3と第4の授業に関する効果です。授業が少人数で行われたことに加え、2020年度は全国学力テストが中止になりました。とりわけ分散登校の時は「スタンダード」化された授業から解放され、生徒の状況に応じて工夫を凝らした興味深い授業を展開した先生が、少なくなかったのです。

 不登校だった中学生が分散登校に出席したところ、友達も先生も一切のこだわりなく接してくれ、勉強も分かりやすくて楽しかったと語るエピソードもたくさん聞かれました。

 中学校で少人数学級が実現し、先生の数が増えれば、事務的な仕事もだいぶ減って先生にゆとりができ、生徒と対話する余裕もうまれ、生徒間の交流が一層豊かになるでしょう。それは自己形成期の中学生にとって、大切な学びと人間関係が体験できる条件にほかならないのです。

(しんぶん赤旗2021年3月14日付1面・4面)