E3168BF4-8051-4CE7-A44B-DC77176163B6 26日の衆院文部科学委員会で、国主導で大学の研究資金確保のためのファンドを創設する科学技術振興機構法改定案について、「大学運営に大きなリスクを負わせる」と追及しました。

 資産運用で同様の仕組みを持つ年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国内企業の株価対策の手段となっていることを指摘し、大学ファンドが日銀、GPIFに次ぐ「第3の公的マネー」となる恐れがあることを批判しました。

 GPIFは2019年度期に8兆円を超える運用損を出しています。ファンドへの大学拠出金の損失リスクについて質問すると、杉野剛研究振興局長は、運用次第では損失が発生すると認めました。

 研究力低下や若手研究者不足は、運営費交付金など基盤的経費を削減して競争的研究資金に移す「選択と集中」が原因であることを指摘しました。大学の連携で質の高い論文が執筆されており、一部の大学に助成対象を限定する大学ファンドで問題は解決するものではなく、運営費交付金などの拡充を求めました。萩生田光一文科大臣は「すそ野を広げることとトップを伸ばす両方が重要。運営費交付金や私学助成を十分確保していく」と答弁しました。

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【議事録】

○畑野委員 日本共産党の畑野君枝です。
 国立研究開発法人科学技術振興機構法の一部改正案について、萩生田光一文部科学大臣に伺います。
 ハーバード大学など世界トップクラスの研究大学と日本の大学では資金力の差が拡大しているとして、大学ファンドの創設によって日本の大学の長期安定的な財政基盤を抜本強化するとされています。
 しかし、アメリカの私立大学は、一八〇〇年代から徐々に今日のような大型の基金をつくってきた、歴史的な経過もあると伺っております。
 状況が大きく違うのに、日本に大学ファンドをつくって、どうやって財政基盤を強化しようとしているのか、伺います。
○萩生田国務大臣 イノベーションの中核を担うのは研究大学ですが、我が国の大学の研究基盤は諸外国のトップ大学と比べて大きな格差が生じており、現時点で各大学の努力ではこの格差を速やかに解消することは困難な状況にあります。
 このため、世界トップレベルの研究大学を目指した研究基盤の強化に向け、まずは国の資金を活用しつつ大学ファンドを創設し、その運用益を活用することによって、財政基盤の強化に資するものであります。
 あわせて、我が国の研究大学が経営体として自律し世界に伍する大学に成長することで、絶えずイノベーションが創出される仕組みを構築することを狙いとしております。
○畑野委員 法案では、年金積立金管理運用独立行政法人、GPIFを参考に資金運用に関する規定を定めていると伺っておりますが、GPIFは二〇一九年度期で八兆二千八百三十一億円の運用損を出すなど、運用益の確保にはリスクが伴うわけです。
 元本割れするような運用損が出た場合にはどうするのか、伺います。
○杉野政府参考人 運用益のリスクについてお尋ねでございます。
 大学ファンドでは、GPIF等におけます運用と同様に、長期的で分散型の資産運用によります、よりリスクを極力回避しながら確実な収益を上げる、これを基本として運用することとしているところでございます。
 ただ、金融市場の動向によりましては一時的な損失の発生が起こるわけでございまして、そうした事態にも耐え得るように、四・五兆円の元本のうち、資本性資金といたしまして五千億円の政府出資を用意しつつ、さらに、運用当初におきましては運用益の相当割合を元本に積み増すことを予定しているところでございます。
 その上で、更に必要な場合には、文部科学大臣が定める基本指針や、法案第三十条に基づきまして、運用方法の見直しや停止、繰上償還などの必要な対応をJSTに求めるということを考えているところでございます。
○畑野委員 今の御答弁、確認ですけれども、大学が出した寄託金とか拠出金の損失がある、そういうリスクもあるということですね。確認です。
○杉野政府参考人 大学ファンドの運営におきましては、各大学からも拠出金を出していただくように、資金を拠出していただくようにお願いをするということを想定しております。そうした大学から拠出された資金も併せまして、一体的に運用を図ろうとしているところでございます。
 可能な限りリスクを回避して確実な収益を上げることを基本としておりますけれども、一時的な損失が発生する場合に大学からの拠出金も含めてそういった事態が発生し得るということは、御指摘のとおりでございます。
○畑野委員 大臣、そういうことでよろしいですね。
○萩生田国務大臣 はい、そういうことです。
○畑野委員 現在の低金利の下で、運用の委託先に支払う手数料なども考えれば、株式運用の比率を増やすことになるのではないかと思います。
 GPIFは、基本ポートフォリオを変更し、設立当初一一%だった国内株式の資産構成割合を二五%に引き上げました。伺いますが、大学ファンドもこれに倣うのでしょうか。また、GPIFは、国内大企業の株価引上げの手段に活用されております。大学ファンドは、日銀、GPIFに次ぐ第三の公的マネーによる株価対策の手段とされるのではないかということについて伺います。
○杉野政府参考人 大学ファンドの資金運用に当たりましては、世界に伍する研究基盤の構築のための支援を長期的、安定的に行うことを目的といたしまして、法案第二十八条に定めるとおり、長期的な観点から安全かつ効率的に運用を行うことを基本的な考え方としておるところでございます。
 このため、運用実績を持つGPIFあるいはアメリカの大学基金などを参考といたしまして、市場の短期的な動向よりも長期的な観点から、リスクをできるだけ抑制しつつ確実な収益を目指すことや、そのためにも、特定の資産に偏ることなく国内外の様々な種類の資産に分散して投資を行うことなどを運用の基本指針とすることを想定しているところでございます。
 実際の運用に当たりましての具体的なポートフォリオの在り方につきましては、今後、CSTIの下に設置する予定の有識者会議におきまして、国内外の投資環境などを考慮した上で、経済、金融等の専門家の協力も得ながら、幅広く知見を集めて、今後検討することとしております。
 なお、本ファンドは、世界に伍していく研究大学に助成できるよう運用益の確保を図るものでございまして、御指摘のような株価対策の手段としての運用を目的とするものとは考えておりません。
○畑野委員 そういうふうに政府はおっしゃいながら、日銀もGPIFもそういうふうに使われてきているわけですよ、実際は。みんな知っていることです。
 ちょっと確認ですが、運用資産の銘柄別の情報公開はいたしますか。
○杉野政府参考人 実際の運用の方針あるいは情報公開の方針につきましては今後の検討課題だと思っておりますけれども、先行いたします公的ファンドでありますGPIFでも保有する銘柄は全て情報公開しております。その前例に倣って検討を進めたいと考えているところでございます。
○畑野委員 聞けば聞くほど不安定な、運用益で支援するというのは私は無責任だと思いますよ。
 大学ファンドによる助成事業で若手研究者への支援を行うというふうにおっしゃるんですが、それでは伺いますけれども、ファンドへの参画大学、ファンドによる助成事業の対象となるというのは、どのような大学を想定していらっしゃいますか。
○杉野政府参考人 大学ファンドによる助成事業によりまして、若手研究者、わけても博士課程学生の支援を検討しておりますけれども、この支援につきましては、博士後期課程を置く大学、これは全国七百八十大学のうち約四百五十大学ございますけれども、博士後期課程を置く大学のうち、例えば、充実した教育プログラムがあり、キャリアパスの確保や学生への経済的支援などに意欲的に取り組む、そういった専攻あるいは研究科を持つ大学を対象として選ぶことを想定しているところでございます。
○畑野委員 幾つぐらいになるんですか。
○杉野政府参考人 先ほど申し上げました数字は、全国七百八十余りある大学のうち、博士後期課程を持つ大学が約四百五十校、約六割の大学に博士後期課程があるということを御紹介しましたけれども、その中から、先ほど申し上げました要件を満たす、かつ、そういったことで申請をしてくる大学を対象に審査をして選ぶということになりますので、現段階で何校程度ということを申し上げることは難しいわけでございますけれども、少なくとも、世界に伍する研究大学として、限られた数の大学が支援を受けますけれども、それよりは幅広く、地方大学も含めて選ばれるのではないかというふうに想定しているところでございます。
○畑野委員 法案を出すときに、選ばれるのではないかとか、そういう分からないことを言ってもらったら困るわけですよ。
 法案第二十三条に、JSTの業務の範囲が規定されています。今回、第六項で助成事業が加えられるんですが、国際的に卓越した科学技術に関する研究環境の整備充実並びに優秀な若年の研究者の育成及び活躍の推進に資する活動を助成するというふうに言っているんですね。
 昨年十二月八日の総合経済対策では、ファンドへの参画に当たって、自律した経営、責任あるガバナンス、外部資金の獲得増等の大学改革へのコミットやファンドへの資金拠出を求めるというふうにしているんです。
 こういうふうに言ったら、政府の言う大学改革に取り組む大規模大学、本当に限られた大学になるんじゃありませんか。大臣、どうですか。
○萩生田国務大臣 先ほど他の委員にも申し上げましたけれども、当面、数校程度を想定しています。
 ただ、初めから総合的な評価のみで判断すると、いわゆる、よく言われるような大学名がぼっと出てくると思うんですけれども、私は、地方などでも非常に卓越した研究などを行っているし、また、非常に安定的な経営をやっている地方大学もたくさんありますので、チャンスはいずれにもあるという形でスタートしたいと思っています。
 その上で、今は、結局、例えば寄附税制なども日本の場合はまだ成熟していませんので、なかなか個人寄附が学校などに集まりませんけれども、今回のこのファンドをきっかけに、大学自らがお金を集める、しっかり投資をしていくというような形をつくっていくことができれば、まさに日本の大学文化そのものを変えていくことができるんじゃないか、そういう期待もしておりますので、是非いい大学を選んで、いい運営を選んで、結果を出しながら、それを増やしていくという努力をしていきたいなと思っています。
○畑野委員 数大学というふうに言われると、本当にショックが大きいですね。
 昨年十二月二十日に放映されたNHKスペシャル「パンデミック 激動の世界」六「“科学立国”再生への道」を見ました。衝撃的な内容でした。番組では、昨年十月に新型コロナの治療薬の候補を発見したと、世界で最も多くダウンロードされた論文を発表した鹿児島大学の三人の研究チームを紹介しています。
 最も若い三十五歳の特任助教、外山政明さんは、薬のエキスパートとして欠かせない、チームでただ一人の薬学部出身の方です。馬場昌範さんのチームの下で活躍されています。ところが、この外山さんは非正規雇用の研究者なんです。このまま今年のこの春以降も研究を続けられるかどうか分からないということです。
 番組では、重要な役割を担う若手研究者が短い期限付でしか働けないという現実、これこそが、日本の科学が低迷している重大な要因として問題視されていました。私もそうだと思うんです。
 資料を配付しておりますが、二枚目です。文部科学省にいただきました。二〇〇九年に全国の国立大学で働く四十歳未満の研究者のうち期限付の雇用は四九・一%だったのが、二〇一九年には六五・九%と大きく増えました。
 運営費交付金の削減、成果指標に基づく再配分、研究費の競争的資金化など、政府が求めるそうしたものに応える大学に資源を重点配分する選択と集中、これで、多様で独創的な基礎研究分野が縮小するとともに、期限付プロジェクト研究が増えて、任期付教員を増やさざるを得なくなっているんです。
 こういうのを見ていますと、学生たちは博士課程への進学を諦めてしまう、先輩たちを見ていれば。ですから、その対象大学も限定される。これは選択と集中を一層進めるものだと言わなくてはなりません。
 伺います。
 三枚目の資料に、科学技術・学術政策研究所が二〇一八年三月にまとめた「日本の大学システムのアウトプット構造:論文数シェアに基づく大学グループ別の論文産出の詳細分析」というのを出されています。二〇〇九年から一三年の自然科学系、分数カウントによる論文数シェアです。
 第一グループは、論文数シェアが一%以上の大学のうちの上位四大学、ここでは大阪大学、京都大学、東京大学、東北大学が挙げられています。第二グループは第一グループを除く十三大学、第三グループは二十七大学、第四グループは百四十大学ということです。
 次の資料四を見ていただきますが、そこに書かれているのは、各大学グループの論文数において責任著者が他大学グループに属する論文数の割合は約二割を占めている、大学グループ間の相互依存性も高まっていると言える、例えば、第三グループ、第四グループの大学の研究活動の低下は第一グループの論文生産数にも影響を与える可能性があるというふうに指摘しているんですね。
 私は、研究力向上というなら、選択と集中ではなく、研究力の裾野を広げる支援こそ求められているのではないかと思いますが、どういう認識でいらっしゃいますか。
○板倉政府参考人 お答えいたします。
 科学技術政策研究所によります先生御指摘の詳細分析によりますと、我が国の論文につきましては、十年単位で比較した結果でございますが、責任著者が海外機関や他の大学グループに所属する論文数の割合が増加するなど、国内外で大学間の相互依存が高まっていると承知しております。
 このため、我が国の研究力の向上に向けては、大学ファンドの創設による世界に伍する大学の育成とともに、運営費交付金等の全ての大学に共通する基盤的経費、また、科研費等の競争的資金によるデュアルサポートの充実を図ることが重要であるというふうに認識しております。
○畑野委員 昨年十二月の総合経済対策では、ファンドが行う助成事業と関連する既存事業の見直しを図るとしています。
 大臣に伺いますが、ファンドの助成メニューとダブる事業は見直し、その分、運営費交付金や私学助成を減らすということなんでしょうか。そんなことがあってはならないと思いますが、いかがですか。
○萩生田国務大臣 私としては、大学ファンドによる支援は、国立大学法人運営費交付金や私立大学の補助金といった基盤的経費とは異なるものと考えておりまして、今後とも、こうした基盤的経費、さらには競争的研究費なども含めて、必要となる大学への資金が十分に確保されるように努めてまいりたいと思います。
 その上で、先ほど先生もおっしゃったように、私も問題意識は同じで、裾野を広げることとトップを高くすること、両方やりたいと思っています。
 今年度、御案内のとおり、創発的研究というのを始めまして、約七百人を採択します。若手の皆さんが十年間腰を据えて基礎研究に取り組める環境を初めてつくらせていただきました。また、先ほど答弁しましたけれども、修士課程から博士課程に行かれる一万五千人の皆さんが、生活費を心配しないで博士課程でしっかり学んでもらえる、研究に没頭できる、そういう環境もつくってきました。
 その上での今度はファンドでありますので、何か一つやるんじゃなくて、全体で底上げをしていかないといけないと思っていますので、そういう覚悟で臨んでまいりたいと思います。
○畑野委員 創発的若手挑戦事業も、ファンドの運用益が出るまでのつなぎにしないで、これを拡充していただきたいと思います。
 最後に、大臣、このコロナ禍で、大学院生も学生も本当に困っているんです。大学院生協議会がまとめたアンケートでは、コロナ禍で収入が減ったが四三・三%、無収入になったのが一〇・三%と半分以上なんです。それで、是非、二度目の緊急事態宣言ですから、学生支援緊急給付金を再度出してほしい、残っているということですから。
 それと、追加なんですけれども、授業料減額、免除と学費納入猶予がもう二月だというんです。それを院生から昨日伺いました。これも余っていると、国立も私学も。だから、是非、学費減免を含めて支援を徹底していただきたい。そのことだけ伺って、終わりますが、いかがですか。
○萩生田国務大臣 新型コロナウイルス感染症の影響で経済的に困難な学生が修学、進学を諦めることのないよう、しっかりと支えることが何より重要と考えております。
 学びの継続のための学生支援緊急給付金につきましては、学校が推薦すべきと判断した全ての学生約四十二万人にまずは支給をさせていただきました。そのうち大学院生は三・四万人、学部生は二十九・九万人に支給しており、利用されていない額が約三十五億円ございます。
 学生の“学びの支援”緊急パッケージを昨年十二月に改定しまして、無利子奨学金の充実や休学する学生への対応などの追加の支援策を盛り込んだところです。
 これで年度末に向かいますので、よく現場、声を聞いて、まず、このパッケージは生きていますので、困っている学生さんには更なる追加をしたいと思いますし、誰一人取り残すことなく、しっかりサポートできる体制を強化してまいりたいと思います。
○畑野委員 是非支援を緊急にお願いしたいということを訴えて、質問を終わります。