「共謀罪」法案、与党 きょう採決の構え

衆院法務委 参考人の反対相次ぐ

 「共謀罪」法案を審議している衆院法務委員会は16日の理事会で、安倍晋三首相出席で17日に質疑を行うことを鈴木淳司委員長の職権で決めました。与党は17日の質疑終了後にも採決する構えです。

 民進党は理事会で、17日の法案質疑について「採決しないと確約することが大前提だ」と主張。これに対し、自民党は「予断をもって答えられない」と述べるにとどめました。

 日本共産党の藤野保史議員は、16日の参考人質疑で法案の問題点が浮き彫りになったとして、徹底審議を主張しました。

 衆院法務委員会は同日、同法案についての参考人質疑を行いました。参考人からは反対表明が相次ぎ、内心を処罰する同法案の本質や、「テロ対策」が目的ではないことが浮き彫りになりました。

 日弁連共謀罪法案対策本部副本部長の海渡雄一弁護士は「共謀罪法案は既遂処罰を基本としてきたわが国の刑法体系を覆し、人々の自由な行動を制限する」と指摘。「人権保障と民主主義の未来に禍根を残す法案の成立は断念してほしい」と廃案を求めました。

 自由法曹団幹事長の加藤健次弁護士は、警察による市民の監視、プライバシー侵害の実態を告発し、共謀罪が「警察の情報収集活動、捜査権限の拡大につながる」と警告しました。 

 「テロ対策」に関し、海渡氏は、すでに日本で「人の命や自由を守るために未然防止しなければならない重大な組織犯罪、テロ犯罪は、未遂以前の段階でおおむね処罰可能だ」として、共謀罪は必要ないと強調。成城大学の指宿(いぶすき)信教授は、オウム真理教の「地下鉄サリン」事件などのテロ事件が防げなかったことを挙げ、「そういった反省なしに、テロを防ぐための法案を用意することは合理性を欠いている」と述べ、反対する立場を示しました。

 日本共産党の畑野君枝議員は、安倍政権による秘密保護法や安保法制=戦争法の強行、憲法9条改定宣言の流れのなかで、共謀罪法案をどう見るかと質問。加藤氏は「情報を統制し、国民の反戦気分、抵抗運動が広がらないよう監視して早い段階で芽を摘んでいき、戦争への体制をつくろうとしている」と述べました。その上で「考えたこと、話し合ったこと自体を処罰の対象にするという意味で、憲法19条(思想・良心の自由)や21条(表現の自由)に反する」と述べ、憲法違反の法案だと批判しました。

(2017年5月17日付 しんぶん赤旗より転載)

 

【会議録】

〇畑野委員 日本共産党の畑野君枝です。参考人の皆さん、本日は大変貴重な御意見をいただき、ありがとうございます。  まず初めに、参考人の皆さん全員に伺います。共謀罪法案に関して、捜査機関が権限を濫用するおそれがあるという声があります。そこで、取り調べその他の捜査を行うに当たっては、その適正の確保に十分に配慮しなければならないと規定し、その運用に期待するということだけでよいのかという点についてお考えを伺いたいと思います。木村圭二郎参考人、椎橋隆幸参考人、海渡雄一参考人、加藤健次参考人、指宿信参考人の順で伺いたいと思います。

〇木村参考人 今、濫用ということをおっしゃったんですけれども、先ほど、私、陳述を述べさせていただきましたとおり、二通りの意味があって、今おっしゃったのは、捜査機関が誤って捜査をする、そういう意味での濫用だと思うんですが、それは刑罰法規全てに通じるようなことでありまして、誤った捜査が行われないようにしてほしいということですね。今回、いろいろな事情の中で、先ほどおっしゃったような、附帯決議というんでしょうか、それを入れる案というのが出ているということなんですけれども、そういうことが入れられるということで私は十分ではないかなと思っています。

〇椎橋参考人 このテロ等準備法案は非常に厳格な三要件がございます。これはまた申し上げるまでもないと思いますが、この要件に従って行われていく。捜査自体は、手続法の改正はないということでありますから、今ある手続法、捜査権限というものを用いて捜査機関は捜査していく。そういう意味では濫用のおそれはないと思います。

〇海渡参考人 これだけでは全く不十分だと思います。共謀罪そのものが、人の合意の段階、それに多少の準備行為があった段階から成立するというふうに言われているわけで、そもそも曖昧な条件で成立してしまいます。  そして、その対象となっている犯罪の中には、構成要件そのものが非常に曖昧な、先ほども言いましたが、威力業務妨害罪であるとか強要罪であるとか信用毀損罪とか、信用毀損なんというのは言論行為そのものを取り締まる法律になっているわけですけれども、そういうふうな観点からいいますと、法案の対象となる行為そのものをうんと小さくしない限り、濫用のおそれはなくならないんじゃないかと思います。

〇加藤参考人 最初に述べた事例からしても、それだけでは不十分だと思います。ただ、この修正案が入ったのは、恐らく、この審議の過程で、やはり濫用されるのではないかという不安がかなり、相当広がっているという反映だと理解しますが、であるとすれば、警察に適正な捜査の配慮を求めるレベルではなくて、濫用の余地のない法律にするというのが国会の仕事であって、そうでないと、使える権限はちゃんと使うというのが警察の体質というか、そういうものですから、やはりそこに期待するというのは僕は国会としての怠慢としか言いようがないというふうに思います。

〇指宿参考人 捜査機関自身がこのような捜査を進めるに当たってどのような規律を持つかということが明確に示されていないわけですので、例えば国会に対する報告義務であるとか、先ほど御紹介しましたような事前規制や事後規制の立法がない限り、違法な監視というのは、我々は行われていることすら知らないのではないかというふうに恐れている次第でございます。

〇畑野委員 参考人の皆さん、ありがとうございました。次に、指宿参考人に伺います。参考人質疑の前回のときに高山佳奈子教授が紹介されておりました、二〇一七年二月一日の共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明、これに指宿参考人は賛同されていらっしゃると思いますが、その理由について御説明いただけますでしょうか。

〇指宿参考人 今回の反対の署名には、実体法研究者のみならず、訴訟法の研究者も多数参加しているところですけれども、私は、この場で申し上げることができるのは、きょう最初に陳述したとおり、捜査手法の規制の観点からこのような実体法の整備というのは行うべきではない。あるいは、これまでテロ行為を抑止できなかった、あるいは犯人を検挙できなかった理由が明らかにならないまま、立法事実が不確定なことについて立法を進めるのは時期尚早であるし、もちろん被害が起きることは防がなければならないわけでありますけれども、既に被害は起きているわけでございまして、そうした被害に関する国会の調査というものがきちっとなされるべきではないか、それを踏まえて初めて立法事実が生まれるのではないかというふうに私は考えている次第です。

〇畑野委員 ありがとうございます。引き続き、指宿参考人に伺います。先ほどのお話の中でも、捜査技術が高度化している、その中で、捜査を前倒しするとプライバシー侵害のおそれが高まるのではないかという危惧をするのですが、この点についてはどのようにお考えでしょうか。

〇指宿参考人 今般の三月十五日の最高裁の大法廷で示されました私的領域という概念でございます。  憲法三十五条は、住居や所持品、書類などについて、令状がなければそれを侵されないということが明記されているわけですけれども、これはいわば明白なプライバシーでございます。他方、路上での尾行や車の追跡というのは犯罪捜査にとって不可欠ですから、これまでも任意捜査として実施されていたわけですけれども、今回、GPSという技術によって長期間、無制限に記録され続けるというのはやはり何らかの規律が必要だということで、恐らく最高裁の判事の皆様は、どのような考え方に立ってこれを規律すればいいかと。公道上だから自由にやれば構わないのではないかという考え方で恐らく警察庁はこれまで捜査を進められてきたところでありますし、先ほど加藤参考人が紹介された堀越事件でも、路上でのビデオ撮影が行われてまいりました。私は、堀越事件の東京地裁の一審で、専門家証人として、ビデオの長期監視はプライバシー侵害であるというふうに証言しました。東京地裁が一カ所、違法判断を出しております。それは、堀越さんが政党事務所にチラシをとりに行って出入りするところが、思想信条の自由を侵害するというふうに判断されました。先ほど冒頭紹介しました西成のあいりん地区のカメラについても、これは労働団体のビルを撮影している部分が民事裁判で違法判断が出ております。これまでも、日本の司法は、監視捜査について全く無制約に、フリーハンドで認めてきたわけではありませんけれども、そうした時代を経て、とうとう全員一致で十五人の裁判官がこれは何らかの規制が必要だと、これまで任意捜査で無規制に行われてきた、法的にでございますけれども、無規制に行われてきたことに初めてメスを入れた。これは、最高裁史上、始まって以来、戦後初ではないかと私は思うのでございますけれども。先生方には大変失礼な言い方になりますけれども、やはりこれは立法府の怠慢が指摘されたのではないかというふうに私自身は考えておりますので、先生方におかれましては、ぜひこの点を御考慮の上、テロ対策にも励んでいただきたいというふうに私自身は考えているところです。

〇畑野委員 ありがとうございました。次に、海渡参考人に伺います。先ほど与党の議員から、集会などのチラシについて、表現の自由にかかわる発言がございました。それについて反論権が与えられていなかったと思いますので、先生の御意見を伺いたいと思います。

〇海渡参考人 反論の機会を与えていただきまして、ありがとうございます。率直に言って、集会のチラシは市民の方々が自由に書かれるものなので、私から見ても、ちょっと事実に反しているかなというものも中にはあるかもしれませんけれども、集会の場では、少なくとも私がしゃべっているときには、正しいことをしゃべっているつもりです。そういうことは相互批判の中でやっていけばいいことだと思うんですが。  先ほど、日弁連の意見についてもさまざまなことが言われたんですけれども、我々は、立法ガイドだけをもとにして今回のような法案は必要ないというふうに言っているわけではなくて、条約そのものの、五条のところに、これらの犯罪は未遂または既遂と区別されると書いてあるんですね。これは予備を含むことは明らかなんです。そして、このこと自身については、合意を推進する行為が予備となってはいけないのかというふうに聞かれて、そこは定義がないというふうに二〇〇六年の段階で外務省の神余さんは答えられていたんですね。それを勝手に変えてしまっておられて、まさにその間に民主党政権があり、そして予備罪をつくるということでできないのかということがあり、そしてその段階で、稲田刑事局長はその方向で進めますというふうに言われていたのに、それに対して、当時石破幹事長は官僚の矜持はどうしたんだというようなことを追及されていましたよ。そういうようなやりとりがあったのに、政権が交代したときから新しい刑事局長は御苦労されていると思いますけれども、やはり、そういう過去の経緯を見たときに、もっと小さな法案にできるということは明らかなので、そこをやってほしいということを言っていて、このことは条約の解釈と全く矛盾しないというふうに私は思っております。

〇畑野委員 海渡参考人に引き続き伺いたいのですが、二点伺いたいと思います。資料の中に載っていて触れられていなかった点なんですが、一つはイギリス、アメリカの共謀罪について、もう一つは、共謀罪法案は現代版治安維持法だという声も聞きますが、両者の共通点についてどのようにお考えなのか、伺います。

〇海渡参考人 詳しい説明は、時間もないでしょうから簡単にしますが、イギリスにおける共謀罪というのは長年にわたって労働運動の弾圧に使われましたし、アメリカにおける共謀罪は、まさしく、労働運動だけじゃなくて、アメリカ共産党を組織することそのものに対して適用された、そういう意味では治安維持法とそっくりな使われ方をしたことがあるんですね。ベトナム戦争のときには反戦運動の取り締まりに使われたという、人権侵害を生み出してきたことは紛れもない歴史的な事実だと思います。治安維持法につきましても、きょうの資料の十ページに書きましたけれども、私も全く同じだと言うつもりはありません。全く違うたてつけの法律です。しかし、どこが似ているかといえば、団体を規制するための刑事立法であって、要件が曖昧である、そして、今、政府は濫用のおそれがないと言っていますが、実は治安維持法のときもそういうふうに言っていたんですね。しかし、それが十年、二十年たつうちに、とんでもない法律になっていった。最初は天皇制の廃止を主張する団体だけに適用すると言っていたのに、天皇制と相反するような宗教結社全てを取り締まれるような悪法になっていってしまったということで、このままの組織的威力業務妨害、組織的強要、組織的信用毀損なんというのをつくってしまったときには、僕は、一つだけでも治安維持法並みの恐ろしい効果を発揮する悪法になるのではないかというふうに思っております。

〇畑野委員 ありがとうございました。続いて、加藤参考人に伺います。この間、秘密保護法、安保法制、すなわち戦争法、盗聴法拡大、刑訴法の改悪、そして先日の安倍総理の九条改憲発言などの流れの中で、今回、共謀罪法案が提出されている、この点についてどのようにお考えになりますでしょうか。

〇加藤参考人 まず、結論から申し上げますと、やはり一体の流れだろうというふうに考えております。  とりわけ、九条を中心とした憲法の問題でいえば、やはり、戦争するためには、これは歴史が証明していることですけれども、一つは情報の統制、つまり、政府の都合のいい情報は流すけれども都合の悪い情報は隠す、それからもう一つは、国民の中に反戦気分あるいは抵抗する運動が広がらないように監視し、できるだけ早い段階で芽を摘んでいく、こういう体制が必要であるということは歴史的にも明らかだと思います。この間の秘密保護法、それから安保法制、いわゆる戦争法を見ましても、やはり、今までにない、そういう戦争に向かった体制をつくろうとしているなということを私は痛感します。せっかくの機会なので一言申し上げますが、私は、その中身もさることながら、この間の国会における審議の仕方自体に非常に危惧を覚えます。先ほどちょっと反論の機会がなかったんですが、例えば、同じ、法案の中身を正確に言っていないとしても、いろいろ不安を感じた市民が、こういう不安もあるんじゃないか、こういうことも起こるんじゃないかということを訴えることと、法案を提出した責任者である総理大臣や法務大臣が、明らかに法文を読んだらそういうことを言えないことを、例えば一般人は対象になり得ないとかと断言することは、僕は質が違うと思います。そういう意味でいうと、言論を萎縮させ、自由な議論を妨げているのは、まさにこの共謀罪の議論でいえば、こちらが一生懸命法文の中身に沿ってそういう可能性を指摘しているのに対して、あり得ないというふうに断言して切って捨てる、私は、この手法自体がやはり憲法から見ても非常に危ない。そういう意味でも、戦争への道に近づいているなという危惧を覚えているということを最後に申し上げたいと思います。

〇畑野委員 ありがとうございます。引き続き、加藤参考人に伺います。憲法との関係で共謀罪法案についてどう思われるかということなんです。先ほども海渡参考人にも伺いましたが、集会のチラシなどについて、この委員会で、表現の自由にかかわる、こういう発言が与党議員から出るということについて、私は大変懸念を感じるんですね。そういったことを含めて、憲法を改めてこの共謀罪法案との関係で見た場合にどうなのか。私は憲法違反の法案だというふうに思いますけれども、いかがでしょうか。

〇加藤参考人 まず最初に、これも先ほどちょっと反論の機会を与えられなかったんですが、この共謀罪法案を正確に理解すると、話し合っただけあるいは考えただけで処罰されるというのは全く正確だと私は思っています。準備行為は誰がしてもいいんですね。それから計画の仕方については一切制限がありません。それから組織的犯罪集団の要件も、それは計画をしたという段階でその人たちがどういう集団かというのを捜査機関が捜査をして決める、こういう仕組みになっています。そういう仕組みでないと言うのなら、そういうきちっとした答弁を今後の質疑でお願いしたいと思うんですが。そういう意味でいうと、やはり、考えたことあるいは話し合ったこと自体を処罰の対象にするという意味では憲法十九条や二十一条に反する法律であるし、それから、何よりも、刑法の原則に反するという点では三十一条以下の条文にも反すると思います。そもそも、今の日本国憲法というのは、戦前の侵略戦争あるいは植民地支配の反省からできたというのは皆さん共通の認識だと思うんですけれども、その中でやはり一番、一つの大きな問題となったのは刑事手続の問題です。  治安維持法のもとで、非常に思想、良心の自由が侵される、あるいは刑事手続の原則が無視された捜査が行われるという中で、やはり刑事手続をきちっと規制しなければ人権が守られないとか民主主義社会が成り立たない、そういう想定のもとに、百のうちの十、一割が刑事手続に関する規定を憲法は置いています。共謀罪というのは、その戦後憲法のもとで辛うじて維持されてきた、例えば、犯罪の結果の発生の危険性がない段階では刑罰は介入しないというこの原則を根本的に転換するものなんですね。そういう意味では、この共謀罪法案というのは、規制される側の人権保障という点から見ても、あるいは刑事法の原則から見ても、憲法の原則をかなり根本的に変える、そういう自覚を持って審議をしていただきたいなというふうに本当に痛切に僕は思います。若干余談になりますが、私が所属している自由法曹団というのは戦前からある組織です。戦前のもとでも、私たちの先輩は刑事事件で、例えば治安維持法の被告を弁護してきました。中には、治安維持法の被告の弁護をしただけで、目的遂行罪ということで処罰された先輩たちもいるわけですね。そういういろいろな方々の経験をくぐって今の憲法があって、いろいろな原則ができてきた。この重みをもっと反映した審議をやるには、もっともっと徹底した審議が必要だというふうに僕は思います。やはり、憲法から見て今の共謀罪法案は本当に問題が多いというか、真っ向から反するというふうに言っていいというふうに私は考えております。

〇畑野委員 参考人の皆さん、大変貴重な御意見をいただきました。ありがとうございます。昨日、五月十五日発表のNHK世論調査では、共謀罪法案について、賛成が二五%、反対が二四%、どちらとも言えないが四二%でした。よくわからないという国民が圧倒的多数、賛成は本当にわずかだということでございますので、参考人の皆さんの御意見を参考にして、さらに国民の皆さんの意見にしっかりと応えて、当委員会での徹底審議を求めると同時に、私は、憲法違反のこの共謀罪法案は廃案にすべきだということを申し上げて、質問を終わります。ありがとうございました。