第190回国会  2016年5月20日法務委員会

ヘイトスピーチは許されない 反ヘイトスピーチ法案賛成の立場で、実効性を求める質問

 衆院法務委員会は20日、与党提出の反ヘイトスピーチ法案を全会一致で可決しました。これに先立つ質疑で、日本共産党の畑野君枝議員は、「ヘイトスピーチをなくしたい」という当事者や市民の声を受けとめて根絶に取り組むよう求めました。

 畑野氏は、理念法である同法案が、地方自治体や警察など行政が判断する上で、どのような効果があるのか質問。提出者の西田昌司参院議員(自民党)は「ヘイトを許さないのが国民の意思だと国権の最高機関で決めた」「意思に従って法の執行をしていただく」と答えました。

 畑野氏は、全国の警察に法律の趣旨、提案者の意思を伝え、ヘイトスピーチを解消するための通達を出すよう要求。警察庁長官官房の斉藤実審議官は「通達する」と答弁しました。

 畑野氏は、参院法務委での参考人質疑でヘイトスピーチ被害を克明に陳述した崔江以子(チェ・カンイジャ)氏が住む川崎市桜本地域で、6月5日にヘイトデモが行われようとしていることを告発。対策を求められた斉藤氏は、違法行為の防止、関係者の安全確保のため「あらゆる法令の適用を視野に入れて厳正に対処する」と述べました。

 岩城光英法務相は「国、地方公共団体がより連携して推進する」と述べました。

(2016年5月22日(日)しんぶん赤旗)

 

【会議録】

畑野委員 日本共産党の畑野君枝です。
 ヘイトスピーチの根絶に向けて、私は、本法案、いわゆるヘイトスピーチ対策法案について伺います。
 まず、提案者に質問いたします。
 この法案は、その前文において「不当な差別的言動は許されない」ということを宣言しています。つまり、ヘイトスピーチはあってはならない、許されないということを宣言した法案です。
 三月三十一日に参議院の法務委員の皆さんが川崎市桜本に視察に来られました。私も神奈川県川崎市の生まれでございます。桜本は、差別に立ち向かい、大変な労力を強いられながら、長い歴史をかけ、違いを認め合い、ともに生きる町づくりを進めてきました。視察に行かれて、そういった町であることも御確認されたと思います。
 その桜本で、子供から高齢者まで利用する地域の施設で仕事をされ、多文化共生の町づくりの先頭に立たれてきたのが在日コリアン三世の崔江以子さんで、参議院の参考人として陳述されました。きょうも傍聴に来られていらっしゃいます。民族差別を助長する、聞くにたえない口汚い言葉を発し、ののしりながら、居住している桜本にやってくる、このヘイトデモに対して、命の危険、恐怖と絶望を感じながら、ヘイトスピーチ根絶のために勇気を持って声を上げられています。
 今度の法案はいわゆる理念法ということですが、地方自治体、警察など行政がさまざまな判断をし、ヘイトスピーチをなくすために、この法案はどのような効果をもたらすのか、伺います。
西田(昌)参議院議員 今おっしゃいましたように、先ほどからも答弁させていただいていますけれども、直接的な禁止規定は設けておりませんが、理念を国権の最高機関で決めていただいた、ヘイトは許さないというのが国民の意思だ、こういうことになるわけでございますから、当然その意思に従って法の執行をしていただく。
 例えば、警察の場合、先ほど言いましたように騒音防止条例ということもあるでしょうし、実際に桜本地区で、わざわざその地区に対してデモをするなんということは許されないわけでありまして、例えば、平穏な暮らしをしている方々のところに、不当なそういうヘイトデモにならないように、コース変更を指導したりということも含め、いろいろな方策があろうかと思います。
 さらに、ああいう実際のヘイトされている現場を見ていますと、それに反対する方々との間でトラブルになったり暴力事件が起きたりしていた事案もあったようでありますから、そういうことを未然に防いで、警察がしっかり、今まではこういう法律がなかったものですから、表現の自由ということで、ある種、野放しと言ってはなんでございますけれども、事実上そうなっていたところが、今度はこの理念法を掲げることによって、自由はあっても何でもかんでも自分たちができるんじゃなくて、やはり不当な、つまりいわれなきそういうヘイトは何人も受ける必要はないわけなんですよね。そこをしっかり、やはり警察側が抑止してくれるものと期待しております。
畑野委員 おっしゃったように、二〇一五年十一月八日、そして二〇一六年一月三十一日、川崎市桜本に向かってきたヘイトデモによって、抗議をする住民、警察も含めて、町は騒然となりました。私は、ヘイトデモは許さないという強い思いで、ことしの一月三十一日に川崎のその現場に行きました。
 また、三月二十日に、川崎駅前で、民族差別をあおるヘイトスピーチに対して抗議をする市民に対して、ヘイトスピーチをした側が市民を殴る蹴るという傷害事件を起こして大変な混乱状態になりました。後日、逮捕者が四人出ました。
 今度の六月五日に、ある団体が川崎発日本浄化デモ第三弾を実施するという呼びかけで、川崎を攻撃拠点にというヘイトデモの告知をインターネットサイトで行っております。これは、再び混乱を起こすことが予想されるのではないでしょうか。
 川崎市桜本のようにヘイトデモのたびに混乱が起こる場所では、この法案と現行法とあわせてヘイトスピーチをなくす効果が発揮できる。これはまさに川崎市桜本地域ではないかと思うんです。提案者がおっしゃっている、この法律の効果を発揮するのはこの地域だということですが、いかがでしょうか。
矢倉参議院議員 まさにおっしゃるとおりであります。
 私も桜本へ行きました。本当に、デモが起きたと言われているところをちょっと入ったら、普通の一般の住宅街なんですよね。こんな平穏な場所に、外からやってきた人間がわあっと来てデモをやる。
 私も聞いて本当に悲しい思いになったんですけれども、あそこの地域は、日本人の方とそれ以外の方がみんな共生しているわけなんです。子供たちもそうなんですけれども、その子供の中で、日本人の子供が在日韓国人の方の子供に対して謝る、子供同士が大人の汚い感情に巻き込まれて謝り謝られるなんという環境に追い込まれるというのは、本当に許せないことであると思います。
 まさにこういった対抗言論も許さないような、相手の人格をおとしめて、そしておまえたちはここから出ていけ、こういうことを言う、相手には何も言わせないということを表現の自由なんだという言葉で、範疇で、権利のようにやってくるということを社会からなくしていこうという理念をしっかり訴えた。
 それを多くの方は悪いことだとわかっていても、それが声に出せなかったところがあるけれども、今回、法律をしっかりとつくることで、そういった方々もどんどんお声が上がっていくことになると思います。
 それも踏まえて、さらには、現地の行政もそうです。法律がないからとかいうことではなくて、法律ができた、こういうのは許さないんだということを現地の行政の方でも声としてしっかり上げていく。さらには警察も、先ほど西田発議者からも話のあったような文脈の中での解釈、取り締まりということもしっかりやっていく、総力を挙げてなくしていくべきであるというふうに思っております。
畑野委員 この法律でヘイトスピーチをなくす、そういう効果を発揮することができるというふうにお答えいただきました。
 次に、警察庁に伺います。
 この法案が成立した暁には、全国の警察に対して、法律の趣旨そして提案者のこうした意思を伝えて、現行法とあわせて行政がヘイトスピーチを解消する取り組みを進めるように通知、通達を出す、このことを求めますが、いかがでしょうか。
斉藤政府参考人 お答えいたします。
 本法律が成立、公布された際には、全国都道府県警察に対して、不当な差別的言動は許されないとする法の趣旨や本法を踏まえた警察の対応について通達をすることを考えております。
畑野委員 それで、ぜひ、差し迫った六月五日の川崎でのヘイトスピーチ、これはしっかり対処していただきたいと思いますが、いかがでしょうか。私は、ヘイトデモなどに警察の許可を出すなんということは間違ってもやらないでほしいと思うんですが、いかがですか。
斉藤政府参考人 お答えいたします。
 六月五日に御指摘のデモが計画をされているということは承知をいたしております。いまだ申請がない段階でございます。
 今後、御指摘のようなデモが行われるとなった場合には、引き続き、違法行為の防止、関係者の安全確保等を図る観点から、必要な態勢を確保して的確な警備を行いますとともに、違法行為を認知した場合には、法と証拠に基づき、あらゆる法令の適用を視野に入れて厳正に対処してまいる覚悟でございます。
畑野委員 本当に、崔さんが言っているのは、ヘイトデモによって、どんなに傷つき心が殺されたか、法整備が進み、思いが国に届いた、希望だった、しかし、またヘイトデモが来る、絶望です、法律を最大限活用してやめさせてほしい、子供たちの目に二度と触れさせないでほしいという思いも私は伺ってまいりました。
 最後に、岩城大臣に伺います。
 ヘイトスピーチをなくすことを多くの皆さんが求めている、そのことへの御認識とヘイトスピーチ根絶に向けた決意を伺います。
岩城国務大臣 これまでも私は、いわゆるヘイトスピーチにつきましてはあってはならないもの、そのようにお答えをしてまいったつもりであります。
 本法律案はその前文で「不当な差別的言動は許されないことを宣言する」などと規定しているとおり、同旨のことが法律において明確にされるものであると認識をしております。
 そこで、本法律が成立、施行された場合には、今後、国及び地方公共団体がより一層連携するなど、このような不当な差別的言動の解消に向けた取り組みを推進していく契機となるものと認識をしております。
 法務省といたしましても、本法律が成立、施行された場合には、不当な差別的言動の解消に向けて本法律の趣旨を十分に尊重し、これを踏まえた取り組みを適切に推進していく必要があると認識をしております。
 そうした観点から、相談体制や啓発活動等の人権擁護施策について、これまでの取り組みについて見直す点はないか、あるいは今後新たに推進すべき施策はないか、そういったことをしっかり検討してまいりたいと考えております。
畑野委員 以上、ヘイトスピーチ根絶に向けてしっかりやっていただきたいということを求めて、質問を終わります。