第190回国会 2016年5月10日法務委員会

低賃金労働を温存/外国人技能実習法案 法務委員会で参考人に質問

 衆院法務委員会は10日、外国人技能実習制度の実習可能期間や対象職種の拡大に道を開く外国人技能実習法案・入管法改定案について参考人質疑を行いました。日本共産党は畑野君枝議員が質問しました。

 参考人の鳥井一平・移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)代表理事は、「技能移転」による「国際貢献」を建前とした外国人技能実習制度が、実際には低賃金の外国人労働者の受け入れ制度として機能していることは周知の事実であると指摘。時給300円、セクハラ、暴行などの人権侵害が繰り返される背景には虚構を積み重ねた制度そのものに構造的な問題があると強調し、根本問題を温存したままの改定案を批判しました。

 実習生の相談を受けてきた榑松(くれまつ)佐一・愛労連議長は、関係機関にだまされて各地の建設現場で酷使されたベトナム人実習生が失踪したことについて、失踪に正当な理由があると認めない法務省を批判。「法務省に人権感覚がないようでは(改定案で監督強化をうたう)新しい機構ができても奴隷労働のそしりは免れない」と批判しました。

 畑野氏が、実習生が自らの意思で実習先を移転できないことがどのような影響を与えているかをたずねると、鳥井氏は「実習生にとって、(使用者に)辞めろと言われることは国に帰れということになる。多くは母国で借金を抱えてきており、問題があっても黙らざるをえない」と述べました。

 畑野氏が新たな機構で実習生の過酷な実態を改善できると考えるかと問うと、榑松氏は、人員体制の弱さを指摘。「実習生が母国語で申告できるようにしなければならない。今度の機構は対応できるのか」と疑問を呈しました。

(2016年5月11日(水)しんぶん赤旗)

 

【会議録】

畑野委員 日本共産党の畑野君枝です。
 本日は、鳥井一平参考人、上林千恵子参考人、榑松佐一参考人の皆さん、大変貴重な御意見をいただき、ありがとうございます。
 この委員会でも、外国人技能実習生がみずからの意思で実習先を移動することができない、あるいは、保証金など、多額な母国での負担、そして強制帰国の問題などが議論されてきたところでございます。
 まず初めに、鳥井参考人にお伺いします。
 外国人技能実習生がみずからの意思で実習先の移転をすることができない、このことによって監理団体や受け入れ企業の言いなりになってしまうということが指摘されております。また、生活の全てについて管理されているという例も伺います。実習先の移転ができないということが技能実習生にどのような影響を与えているのか、また、実習先のみずからの意思による移転の自由、このことをどういうふうにするべきとお考えか、伺いたいと思います。
鳥井参考人 この移転の自由というのは、先ほども述べましたが、非常にポイントは辛目ですね。
 つまり、やめろということは帰れということになってしまうわけです。このことは非常に恐怖なわけです。先ほども申し上げましたけれども、大体の技能実習生は、大小ありますけれども、借金を抱えて来ておるわけですね。この借金が返せなくなる。三年間働くことによって返していくんだという計画があるわけです。技能実習生はそれぞれ計画を持って働いているわけですけれども、これが、口答えをする、生意気だということだけで帰れということになりますと、非常に困るわけですね。ですから、どうしても黙ってしまわなければいけない。このことが非常に大きなストレスを生み出すということで、さまざまなトラブルにもなるということになろうかと思います。
 ですから、やはり先ほど申し上げましたけれども、受け入れ先が確保されるのであれば、移動する自由があるということが担保されると、労使関係が非常に円滑に、健全になるかと思います。
 私は、これも繰り返し申し上げていますが、例えば時給三百円だとか労働時間がひどい、そういうところに伺うと、社長さんたちに会いますと、そんなに悪い人はいないんです。会ってみると、みんな普通のいい人なんですよ。冷静に考えましたら、斜陽産業だとか大変な製造業あるいは農業を一生懸命やっている社長さんたちやおやじさんたちなんですよ。そんなに悪い人はいません。とんでもないのが中にはいますけれども、ほとんど普通のいい人たちなんですよ。
 なぜその社長さんが時給三百円なんということをやってしまうのか、あるいはセクハラをやってしまうのか。これは、移動の自由がない中での拘束力が高まっている、そういう中で起きているという実態をぜひ御理解いただきたいなというふうに思っております。
畑野委員 引き続き鳥井参考人に伺いますが、実習生の自由が奪われている理由の一つに、先ほど申し上げた、保証金を母国の送り出し機関に払わなくちゃいけないという問題が指摘されているんですけれども、これは二国間取り決めで解決することができるんだろうかということを伺いたいんです。
 それで、先ほど言ったように、借金を背負ったまま日本で技能実習するということで、これが具体的にどんなふうな影響を及ぼしているのか、また、どうすれば保証金の問題などを解決することができるのかということについて伺いたいと思います。
鳥井参考人 二国間協定で全てが解決されるとは思いません、確かに。ただ、送り出し国政府の責任というのを明確にするということがあれば、何らかの解決につながるというふうには思っております。
 それから保証金、借金といいますか、名前は別に必ずしも保証金ではないわけですね。出稼ぎ労働というのがなぜそのような、いわばコストがかかるのかということなわけで、私たちは、労働者の受け入れに当たっては、個人の労働者のコストがかからないようにしていく、このことは、無用なブローカーを介在させない、そういう意味では、二国間協定というのは非常に大切な役割を持つのかなというふうに思っております。
畑野委員 引き続いて、上林参考人に伺います。
 先生もいろいろな論文を書かれていらして、労働移動の自由ということについても書かれていらっしゃいます。実習先の移動の自由とそして強制帰国の問題について、もう少し具体的な事例など研究のお話を伺いたいと思いますが、いかがでしょうか。
上林参考人 私は余り、失踪した人については知りませんが、労働条件を上げたい、あるいは労使関係で交渉するときに、一番最初にみんな、交渉する前に、嫌ならやめてしまうというのが日本人の普通の行動ですよね。何か交渉するのは面倒くさいし、難しいことはわからない。やはりそれができない、禁じられているというのは、労働条件の交渉をそもそも行えないし、できないことかなというふうに思っています。
 今回について、余り申し上げませんでしたけれども、労働条件の向上を求めて移動の自由ということと失踪というのが、ある意味では同じような現象になってしまうところが非常に難しいところで、失踪してしまうと、結果としては不法就労者ということになってしまいますね。
 この辺は、何を不法というのか難しいですが、アメリカの例を見ますと、受け入れた後に、必ずもっと高い賃金で雇って不法就労を促進したいという人たちがいて、それは、受け入れ費用に関する、送り出しの費用とか訓練費用とかというものを次に不法で雇う人は負担しませんので、フリーライダーが出てくるんですね。この問題と移動の自由というのは二律背反の問題なので、どう考えるのか、今私も非常に迷っているところです。
 以上です。
畑野委員 引き続き伺うんですが、先ほど母国の方のビジネスチャンスという、中国の話がありました。ビジネスチャンスというのは、人材派遣会社にとってのビジネスチャンスということなのか。それでは、実習生にとってはどうなのかというのを伺いたいんです。
 なぜかというと、いろいろと問題が指摘されているんですけれども、それが今後拡大されるということが今度の法案でもあるんですね。それで、私は、今の問題そのものを解決しなくてはならないというふうに思っていて、それをしないで拡大ということについてどうなのかというふうに思うわけなんです。
 先ほどの話に戻りますが、ビジネスチャンスと相手方が言っていらっしゃることと、そもそも法律のこれまでのたてつけが外国への技能移転と国際貢献と言っていることと、ビジネスチャンスというふうに受けとめられているというその問題についてどのようにお考えになるのか、実態などを含めて教えていただければと思います。
上林参考人 送り出しの派遣企業としては、派遣期間が長くなる、派遣先の職種が拡大するというのは、派遣人数の拡大につながるので、これはビジネスチャンスというふうに考えるんだと思います。それは、民間企業がやっているので、派遣人数を多くしたいと考えるのは当然のことではないかと思いました。
畑野委員 続いて、榑松参考人に伺います。
 建設業の相談が増加しているというふうに伺いました。それで、建設業での技能実習生の状況について、もう少し伺いたいと思うんです。
 例えば、タンさんの例ですけれども、各地を転々と遠いところまで行っている問題、あるいは福島の問題など、そういう、自分の意思でここには行きたくないとかそういうことが言えないのかどうかを含めて、先ほどの実習先の移転の自由等を含めて、実態を教えていただけますか。
榑松参考人 これまでの相談はほとんど製造業だったので、せいぜい本社工場から別の工場に行くくらいだったんですね。この一年間、建設業が急にふえてくる中で、タン君はどこから来たんだと言ったら、気仙沼だという話だったんですね。それで、聞いたら、実習計画書は受託現場と書いてある、しかし、雇用契約書は鳥取県の会社が書いてある。
 入管的に言うと、受託現場と書いてあれば、普通は、工事ですから、土建屋は会社の中で工事はしていないので、みんなその辺で普通しているので、それは受託現場でいいと思うんですが、現在、東北と関東での建設業での人手不足がこの一年間すごく顕著で、そういう方面に飛ばされる。
 簡単に言うと、タン君は七百五十円の七時間半で働いていましたけれども、私、宮城の労働組合で調査をしていますが、宮城県では最低一万円は払わないと土木作業員は集まらないです。関東近辺も、今、オリンピックで建設業が物すごく不足しているので、やはりアルバイトでも九千円は払わないと来ないです。そうすると、差額が大体四千円くらいになりますね。二十二日だと、四千円を掛けると八万円とか十万円とか、口ききで十人派遣すると八十万円くらい社長のところに差額が入ってくるわけですね、寮費も取るから。そういう動機づけがある。
 もう片方で、電力会社の話、入管にすぐ連絡しました。三日後に、社長に怒られた、取り下げてください、入管が会社に来た、私が悪かったですと。つまり、本人は放射能が怖くても断れない制度なんですね。いや、実習計画書に何と書いてあるかは僕は見ていないので、入管の方は見ていると思うんですが、福島の大熊町で実習なんだと書いてあるのかもしれませんが、少なくとも、そうやって書いてあればセーフなんです、この制度は。
 果たして今の建設業の受託現場というのは本当にこれでいいのかというふうに思って、それにさらに、先ほどの賃金の問題とか建設業特有の問題が今出ているので、早急に対応する必要があると思います。
畑野委員 引き続きお伺いします。
 法案では、外国人技能実習機構が新設されることになっております。この新機構が、果たして技能実習生の過酷な実態を本当に改善すると言えるのか、その点についてはいかがでしょうか。
榑松参考人 先ほど言いましたが、受け入れ機関に対する監督、調査ができるようになる、それから、実習生そのものに申告権があるというのがすごく重要なんです。今、タンさんが不正を申し立てました。しかし、実習生には申告権がありませんから、受け入れ組合を処分したということは、入管からは本人に伝わらないんです、申告権がないですから。
 それで、いつも入管で言っているんですね。僕が不正を告発するでしょう、結果はどうなりますかと言うと、榑松さんには申告権はありません、実習生本人にも申告権はありませんので、あなたに答える必要はありません。不正認定されても本人には伝わらないんです。そういう点では、申告権ができるということは、少なくとも本人には伝わるんですね。
 しかし、実は巧妙ですので、間にブローカーがいっぱい入ってくるとそう簡単にはいかないですね。一回目調べたくらいでは出ません。先ほどの、ネパールの事件なんかはそうですね。技能実習生、富山のネパール人五十人が捕まった事件が報道されました。手配した日本の業者はいるんですが、その会社は出てきません。書類上の派遣会社だけが処分をされています。あっせんしたやつは全然関係ないです。本人たちは結構喜んでいて、これまでは最低賃金だったのが、新しいところに行ったら九百円だったというんですね。そういうなかなか複雑な問題について、今回の機構ができるのか。
 それから、実は名古屋入管の担当だから僕は知っているんです、富山から名古屋入管に送られてきたから。今回の機構でも、名古屋に多分十人体制だと思うんですが、果たして十人で名古屋から富山まで担当できるのか。
 名古屋だけでも二百あるんですよ。言葉はしゃべれるのかといったら、そんな言葉をしゃべれる人はほとんどいないでしょう。実習生は母国語で申告ができて、それに対応できなければ、できない。今度の機構は全ての言葉に対応できるのか、これは問われていると思います。
畑野委員 それでは、参考人の皆さんにそれぞれ最後に伺いたいと思うんです。
 この間の議論の中で、あるいは前回の参考人質疑で伺いましたけれども、外国人技能実習生の制度の建前と現実がかけ離れていると指摘されました。つまり、技能移転を建前としているんだけれども、現実は安価な使いやすい労働力として扱われているという問題がある。
 それで、この間、多くの技能実習生の皆さんの相談に乗られる、あるいは海外の研究などを実際にされてきた皆さんが、技能実習生の皆さんはそもそもどういう思いで日本にやってくるのか、あるいは諸外国、二国間でいえば、海外の方はどういう思いでこの日本に送り出してきているのか。生活の実態、あるいは海外の思いなど、その点について伺いたいと思います。
鳥井参考人 先ほど申し上げましたけれども、これは誰もが知っている事実なんですね。つまり、これは労働者受け入れ制度である、あるいは労働者送り出し事業であるということは、誰もが知っている事実だというふうに思います。そのことは、もう二〇一〇年の制度改定で、ある意味でいうと技能実習制度は純化してしまった、研修制度とは分離したんだというふうに思います。
 私は、ベトナム、それからフィリピン、中国、そしてそれぞれの送り出し機関と、現地を訪問して話もしましたけれども、ある意味でいうと、優良な送り出し機関というのはやはり地域での信頼というのがありますから、送り出した実習生が日本でちゃんと働けているのか、保護されているのかについて心を配る送り出し機関もありますが、それらも全て、やはり出稼ぎ労働としてどのように守っていくのか、そのことで、稼いだお金を国に持ち帰ってどのように貢献されるのかということだろうというふうに思います。
 そういう意味では非常に正直なところだと思いますので、私は、このような、表向き、いわゆる開発途上国に技術移転というようなごまかしは早くやめるべきだ。働く人に対してはしっかりと働いてもらい、企業はそのことをしっかりと受けとめて、企業の発展にも寄与してもらうということでやっていくということが大切なんじゃないかなというふうに思っております。
上林参考人 技能実習生について感じることは、昔の日本にあったような、孝女とか孝行息子という形で、自分で稼いだお金を自分で使わずに家族のために送金するという姿が、一昔前の日本かなという印象を持ちました。
 以上です。
榑松参考人 私は、フィリピンとベトナムを調査に行きましたが、それぞれ両方とも世界じゅうに労働者を派遣していて、日本だけがこの仕組みというのはなかなか理解されにくいと思います。やはり、世界的にも海外での移住労働というのは進んでいるので、同じような保護の体制は必要だと思います。
畑野委員 きょうは貴重な御意見をいただきまして、参考人の皆さん、ありがとうございました。