「共謀罪」 内心処罰 一般人も対象

衆院委 参考人から指摘相次ぐ

畑野議員が質問

 衆院法務委員会は25日、「共謀罪」法案について参考人質疑を行いました。法案に賛成の立場の参考人からも、「内心の処罰」や一般人が捜査の対象になることに懸念が出され、同法案の危険性が改めて浮き彫りになりました。

 日本共産党の畑野君枝議員が、花見か犯罪の下見かの違いは目的であり「目的をしっかり調べる」とした金田勝年法相の答弁を挙げて「内心を調べることになり、憲法違反ではないか」と質問したのに対し、高山佳奈子京都大学大学院教授は「内心の自由を侵害するような立法は違憲だ」と答えました。

 高山氏はさらに、花見と下見の違いは「内心そのものだ。日本国憲法は、内心の違いだけを根拠に処罰することを基本的に認めていない」と指摘しました。

 法案に賛成した井田良(まこと)中央大学大学院教授は、重大犯罪の発端部分を捕まえるには「内心を見るのは当然だ」と述べました。

 一般人が捜査対象になるかをめぐっては、元自民党衆院議員で弁護士の早川忠孝氏が、“一般人も対象”と答弁した盛山正仁法務副大臣の方が「法律家の感覚に近い」と述べ、対象外だとした金田法相の見解を退けました。

 漫画家の小林よしのり氏は「市民が萎縮して健全な民主主義が成り立たなくなる」と警鐘を鳴らしました。

 政府が「共謀罪」の最大の口実とする国際組織犯罪防止条約については、高山氏が、現行法制度の下、「共犯や予備罪・陰謀罪の処罰等の諸制度を組み合わせることで締結できる」と指摘。同条約5条を元に共謀罪が必要だと主張する政府に対し、「条約全体は国内法の原則に適合する対処を求めている。5条だけをしゃくし定規に見て、全部国内法で犯罪化しないといけないものではない」と強調しました。

(2017年4月26日付 しんぶん赤旗より転載)

 

〇畑野委員 日本共産党の畑野君枝です。  参考人の皆さん、きょうは大変貴重な御意見をいただき、ありがとうございます。まず、高山佳奈子参考人に伺います。共謀罪法案における実行準備行為は、外見だけでは行為の意味はわかりません。花見と下見の違いは目的であり、目的をしっかり調べるという政府答弁がありました。結局、内心を調べることになります。これは、内心の自由を保障した憲法に違反するのではないでしょうか。

〇高山参考人 ある人がある場所に赴く、その目的が花見のときは処罰対象にならないが、犯罪行為のための下見のときは処罰対象に入ってくるということが出てまいりました。これはまさに、外見上は全く何の違いもございませんので、違いは内心そのものです。そして、片方が処罰され、片方が処罰されないということは、その内心の違いだけを根拠として処罰されているのと同じことになるわけです。しかし、我が国の憲法の考え方では、そのようなことは基本的に認められておりません。  最高裁判所は、国家公務員法違反が問題になりました事案で無罪の判断を出したときに、次のようなことを言っています。内心の自由、思想、良心それから表現の自由などを含む精神的自由というのは、経済的な自由と比べても一段と上の価値を有する。それを、いわんや刑事罰をもって制限しようというからには、相当の理由がないといけないわけです。  この認められる基準については、最高裁は、保護される利益に対する危険が単に観念的なものにとどまらず、現実的なものとして実質的に認められる場合でなければ処罰してはならない、これに反する処罰は憲法違反であるという考え方を示しているわけです。まさに、これを出発点といたしますと、単に内心が花見か下見かというだけ、あるいは単に観念そのものであるような犯罪のアイデアといったものが処罰の対象になってしまうということには重大な憲法上の疑義があります。そして、TOC条約が守ることを求めている国内法の基本原則の、日本における重大な内容の一つがまさにこの原則でありますので、これを侵害するような立法というのは違憲性があると思います。

〇畑野委員 ありがとうございました。続いて、小林よしのり参考人に伺います。先ほど、物言う市民をどう守るかが民主主義の要諦だ、これは物言わぬ市民にとっても大事だというようなことをおっしゃいました。思想信条の立場の違いを超えて、やはり、国家から監視され、内心の自由、思想信条の自由、表現の自由を奪われることは許されないという趣旨だと思いますが、御意見を伺いたいと思います。

〇小林参考人 また同じことを言わなきゃいけないのかなという感じですけれども。共産党を警戒するのは、もちろん言論の自由とか公共空間が狭くなってくる可能性がないかというようなことを心配しておりまして、一番肝心なのは、天皇制のところがとことんわしと違いますので、非常に危惧をしちゃうんですね。でも、共産党は、やはり今現在の国家権力に対する批判というところは非常に鋭いものを見せてくれますし、大変そういうところはありがたい、頼りになると思っているんですよ。社会って変わるんですよ、どんどん変わるんです。ずっと一定の社会というのはない、保てないんですよ。その変わっていくときに悪い方向に変わっていったら、これはチェックしなければならないので、もうわしの考えって結構共産党の考えと同じところがいっぱいあるんですよね、おかしなことに。だから、よく話し合うと意見がぴったり来るところは多分あると思います、いっぱいね。天皇制だけちょっと違うんですけれども。けれども、そういう意味で活躍してくれること、言論、表現の自由を守るという、民主主義の基幹の部分を守るというところでぜひとも共産党には活躍してほしいと思います。

〇畑野委員 ありがとうございました。激励いただきました。次に、早川忠孝参考人に伺います。本法案の対象犯罪は二百七十七と、余りにも広いという意見がありまして、参考人は対象犯罪を絞る方向で修正すべきだという御意見だと伺っておりますが、その点について伺いたいと思います。

〇早川参考人 対象犯罪の絞り込みは、専門家の間で相当具体的に検討していただかなきゃいけないと思うんですね。今はどっちかというと、反対と言うだけで、中身の一つ一つの犯罪についてどんなことがあり得るかということについての検討が足りていないんじゃないかという心配がありますので、そういう意味で、これはどうかなというのがある。例えば、倒産事件なんかをやっていると、最終的に、破産手続をやれば詐欺破産だとか、あるいは特定の債権者に対しての担保提供とかという、いわゆる民事的な行為の中で特別有利にやる、更生もそうですし、さまざまな、法律的な中に、一般企業がどうもそういうふうに疑われるようなことに関与しているというケースがあるんではないだろうか。これは多分、自民党も公明党の皆さんも、よくよく検討すると、自分の知っている人たちが万一捜査の対象になったら大変だなということになるのかしらというふうに思っています。組織犯罪集団がやろうとする犯罪の中には本当にいろいろなケースがあるんですけれども、節税と脱税というこの区分についても、税金を逋脱するというその行為について、結構、経理さんと税理士さんと組んでいろいろなデータをつくり出してやる、こういったものが、いわゆる脱税というふうに大くくりしたときに、あれれ、ここまでいくと一般の企業も、あるいは個人も、集団的にやろうとすると出てくる。会社の場合は、当然、経理担当を含めて一つの組織になっていますから、ある段階で変質するということがあり得るから、これはちょっと注意した方がいいのではないかなというふうに今のところ私は思っていますけれども、もっと検討すると出てくるかもしれません。

〇畑野委員 ありがとうございました。検討が必要だというお話でした。次に、井田良参考人に伺います。  本法案は、発生する結果の重大性の違いにもかかわらず、一律に計画段階で処罰されるということですが、この点についてどのようにお考えになりますか。

〇井田参考人 処罰の根拠というのを考えたときに、それは確かに、遠い先にはいろいろな形の、違った種類の結果というのが控えているわけですけれども、今現在の段階であれば、そういう重大な犯罪を行う危険性を持っていて、今ここでとめないといけない。さっきちょっと内心の話が出ましたけれども、捕まえて内心を処罰するのがまずいのは、それは無害な場合で、今問題になっている行為というのは、これはこのままほっておけば遠い先には大変な被害が生じるおそれがあって、今ここでとめないと何が起こるかわからない、後で取り返しがつかない、こういう危険性をはらんだ、因果的な発端部分を捕まえようという議論であります。そこで内心を見るというのはある意味では当然、つまり、犯罪を意図して意を決している、それを実現しようと思っているからこそ、その行為が危険であるわけなので、内心を見るのは当然だという話になってくるのではないか。いずれにしても、そんなことで、今この段階で処罰するというふうになれば、遠い先に考えられている結果の重大性にかかわらず、とりあえず定型的な形の刑にするというのは、実は現行法がそうでありまして、予備罪の規定を見れば基本的には同じような刑が、どういう犯罪が将来来ようと同じような刑が並んでいるのにお気づきだと思うんですけれども、そういう仕組みが今の現行法の建前だというふうに御理解いただければと思います。

〇畑野委員 いろいろな問題をこれからまた考えていきたいと思います。ありがとうございます。小澤俊朗参考人に伺います。TOC条約を締結するときに、国内法の条約適合性についてチェックする国際機関というのはあるのでしょうか。

〇小澤参考人 ございません。

〇畑野委員 ないということでした。ありがとうございます。それで、高山参考人に伺いますが、先ほども委員の方から紹介があった、刑事法学者として声明を取りまとめていらっしゃいます。共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明というものです。その刑事法学者の立場として伺いたいんです。立法ガイドの問題ですとか、あるいはTOC条約と本法案についての関係など、もう少し詳しく伺えますでしょうか。

〇高山参考人 先ほど、御質問いただいた点について述べる機会がなかったんですけれども、やはり、国内法の基本原則に従った、憲法に従った組織犯罪対策というのがどの国にも求められているというのが条約の根本的な考え方なんですね。まさにここから出発しまして初めて、条約の五条でありますとか、立法ガイド五十一項も、国連からの御回答も、全てが整合的に理解できる。そして、それに基づいて日本は条約に参加することができると考えております。

 具体的には、五条は過失犯なんかは対象に入れていない、想定していないと考えられるわけですし、留保を行って参加している国もあるということで、日本も、さっき最高裁の原則というふうに述べましたような、観念的でなく実質的な危険のある行為だけが刑罰の対象になり得るという基本原則に従いまして、その範囲で対応するということ。そうすると、場合によっては、広い範囲で共謀罪を処罰している国よりも処罰範囲が狭くなる部分があるかもしれませんけれども、それは構わない。したがいまして、立法ガイドでもしゃくし定規に全部の国内法化を求めているものではないという意味だと思いますので、特に矛盾する点は生じないと考えます。刑事法学者の声明でも余りそこは詳しくは書くことができていなかったんですけれども、形式的、一律のしゃくし定規の適用は要らないという趣旨で理解をしております。そのほかにも幾つかの点を声明では出させていただいておりまして、例えば、テロ対策というのはやはり実際必要だと思うんですけれども、現実的に心配されるテロというのはイスラム過激派によるものが考えられるわけですが、これは、安保法制が強行されたので、それに対する報復的な措置としてバングラデシュで日本人が殺害されたというような事案もありましたし、それを考えますと、外交的な対策というのをもっと有効なテロ対策として考えていく必要もあるだろうと思います。

 それから、先ほど小林参考人を中心としておっしゃっていただいた点ですが、やはり観念だけでは処罰ができないというのが原則でありまして、いろいろな表現者の方々あるいは研究開発に携わるような人たちとかも含めまして、頭の中にもう殺人とか強姦とかが渦巻いている状態というのは、別にそれ自体としては何でもないわけなんですね。表現者の方たちは、それが弾圧されてしまうかもしれない、何かのはずみで誤解されてしまうかもしれないという懸念を非常に抱いていらっしゃると思います。それは新しい物質とか技術とかを開発しているような研究者の立場でも全く同じでございます。 ういう、非常に広い範囲で処罰の網をかぶせてしまったときに問題が起こる可能性も、やはり今までと同じではなく、範囲そのものが広くなるということは懸念しているところでございます。以上です。

〇畑野委員 高山参考人にもう少し伺いたいんですが、そうしますと、TOC条約を締結するために憲法に反する法律をつくるということについてはどのようにお考えでしょうか。

〇高山参考人 憲法に反する法律は、たとえつくっても無効ということになりますので、もちろん、当然そのことを踏まえて、TOC条約本体が、五条以外の幾つかの条文で、国内法の基本原則に従って、その範囲で対応することを求めています。この基本原則の内容にはもちろん刑事手続の内容も含まれますけれども、今般問題になっておりますような処罰範囲の問題もございますので、例えばアメリカなどを見ても、共謀罪、非常に広く処罰しているようであるけれども、実は処罰していない地域もあるのであるといったような、国の実情に合った対応が求められていると考えます。

〇畑野委員 そうしますと、もう少し伺いたいんですが、先ほど、アメリカなども留保して条約の締結をしているということですよね。こういうのは当然可能だということですね。

〇高山参考人 もちろん、できる留保と許されないと考えられる留保と、両方があると思います。五条全体を留保して無視するというようなことは私もできないと考えていますが、日本の場合には、既に共犯の大変広い処罰の制度がございますし、ほかの国にはないような抽象的危険犯の非常に多数の処罰類型、そして予備罪や陰謀罪も他国よりも広く処罰されているところがございますので、そういった制度を組み合わせることによって対応ができるし、現行法のもとでも、条約に加盟している多くの国よりは広い処罰範囲を持っていると理解しております。

まR畑野委員 そうすると、結論としては、日本の場合は今の状態のままでTOC条約に入ることができる、締結することができるという理解でよろしいのでしょうか。

〇高山参考人 はい、私はそのように考えております。  ただ、もちろんいろいろなやり方が考えられることは考えられますので、例えば、穴があるように見えて心配であるというところについては、注意的な留保を付すでありますとか、あるいは個別に犯罪類型をつけ足すという形で穴で埋めるということは別途考えてよいかと思います。  

 例えば、人身売買罪への対応が問題になりましたが、現行法では、身の代金目的誘拐罪の予備罪は処罰されていますけれども、人身売買については予備がございませんので、仮に組織的人身売買予備罪という新しい犯罪類型を検討するということは考えられると思うんです。  いずれにしても、このような非常に広い形での準備、計画段階の処罰ということではなく、個別に本当に必要な犯罪類型を議論してつくっていくということが求められていると思います。

〇畑野委員 時間がそろそろ参りましたので、以上で私の質問を終わらせていただきますが、きょうは、五人の参考人の皆さん、ありがとうございました。今後とも委員会で、引き続き議論や参考人質疑なども大いに進めてまいりたいと思います。ありがとうございました。