リニア中央新幹線についての日本共産党の見解

2012年5月21日 日本共産党山梨県委員会
山梨県甲府市相生2-4-2
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【はじめに】
リニア中央新幹線の建設について日本共産党山梨県委員会(党県委員会、以下同様)は、県議会での質問をはじめ、節目、節目に党県委員会としての見解や政策提言を発表してきました。
リニア中央新幹線は、昨年5月に国土交通省が整備計画の決定とJR東海に対して建設指示を行ったことにより実現に向けた動きが加速しています。これもうけてJR東海は、リニア実験線の先行区間を延伸し全線による実験をめざす工事を急ピッチで進めています。県内でも、中間駅の建設場所決定や環境影響調査の実施などが行われ、山梨県は、リニア交通課からリニア交通局に格上げし、リニア活用基本構想を今年度にも策定しようとしています。
一方、県内でも各種の不安や懸念が広がり、昨年10月29日には山梨革新懇主催のリニアシンポが開かれるなど、県民的議論が巻き起こっています。
リニア中央新幹線は、整備計画の決定・建設指示が行われたとはいえ、今後2014年までの環境影響評価をふまえた工事実施計画の申請、それが認可されてはじめて工事着工となります。こうした時点において、東日本大震災や福島第一原発の事故など、新たな社会情勢のもとで、リニア中央新幹線についての党山梨県委員会としての見解と提言をつぎのとおりまとめました。関係者はもちろん広く県民の議論の参考となるよう期待するものです。

目 次
【はじめに】
【1】リニア中央新幹線は本当に必要か
―日本と山梨の未来社会のあり方から問う
(1)東日本大震災を教訓とした国づくりから
(2)福島原発事故をふまえた今後の電力のあり方から
(3)将来を見通した交通政策を
【2】リニアの安全性や環境問題は大丈夫か
(1)電磁場をはじめリニア特有の問題点は
(2)大地震対策や長大山岳トンネルの対策は
(3)自然破壊・環境破壊は
【3】採算性は大丈夫か―税金投入の危険はないのか
【4】地域経済への影響、アクセスや周辺整備の費用は
―山梨にとってマイナス面はないのか
【5】建設指示の白紙撤回とともに山梨県政に対してリニア推進からの転換を求めます

【1】リニア中央新幹線は本当に必要か

リニア中央新幹線は、日本の三大都市圏を一時間で結ぶ「中央リニアエクスプレス構想」として、JR東海、歴代政府などによって推進されてきました。とくに2007年にJR東海が自己負担での建設を表明して以来、急速に動きだしました。
《JR東海》 JR東海は、一昨年の2010年5月10日国土交通省の交通政策審議会陸上交通分科会鉄道部会中央新幹線小委員会のヒアリングにおいて、「超伝導リニアによる中央新幹線の実現について」と題するつぎの見解を発表しました。
①超伝導リニアによる中央新幹線の実現により、東京・名古屋・大阪の大動脈輸送の二重化を実現し、将来のリスク発生に備え―東海道新幹線の経年劣化と大規模地震等の災害リスクに対する備えが必要。②超伝導リニアの実現は、都市間の到着時間短縮効果などにより日本の経済および社会活動を活性化させ、大きな波及効果を生む。③国に資金援助を求めずJR東海の自己負担でプロジェクトを完遂する。④完成まで10年を超える期間を要し、早期実現のために早期着工が必要。
《国土交通省》 国土交通省は、2010年2月全国新幹線鉄道整備法により、「中央新幹線の営業主体及び建設主体の指名並びに整備計画の決定」について交通政策審議会に諮問しました。これをうけて同審議会陸上交通分科会鉄道部会の下に設置された中央新幹線小委員会(以下「中央新幹線小委員会」)において審議が行われてきました。
中央新幹線小委員会では、超伝導リニア方式で三大都市圏を短時間で結ぶなど中央新幹線整備の意義や整備計画走行方式及びルートなどについて審議され、大震災からわずか2ヶ月後の2011年5月12日に営業主体と建設主体としてJR東海を指名した答申を行いました。
この答申をうけ、国土交通大臣がただちに整備計画の決定と建設指示を行いました。
《山梨県》 山梨県は、三大都市圏はもちろん計画沿線自治体とともにリニア中央エクスプレス建設促進期成同盟会を組織し、中央新幹線の実現にむけて一貫して推進してきました。なかでも望月県政の時代に故金丸信副総理の主導によるリニア実験線の誘致以来、歴代の県政と県政与党によって、「リニア中央新幹線が21世紀を変える。より豊かに、より快適に、よりスピーディーに…。未来に向かって走り始めます」(期成同盟会パンフ)などと、「夢」をばらまいてきました。そのため、鉄道総研への160億円の貸付や関連公共工事の地元負担による197億円をはじめリニア関連で、これまでに総額400億円を超える財政支出をおこなってきました。
最近では山梨県にとっての「リニア効果」を最大限にあおる講演会の開催や駅設置場所と周辺整備や県内各地へのアクセスなど一層の推進をはかろうとしています。

●リニア中央新幹線の計画概要
◇路線経路 (南アルプスルート)
品川―神奈川―山梨(甲府)―長野―岐阜―名古屋―三重―奈良―大阪
・東京~名古屋 286km 2027年(平成39年)開業
・東京~大阪 438km 2045年(平成57年)開業
・全体の80%以上が地下40㍍の大深度地下トンネルまたは山岳トンネル
◇中間駅の構造・停車予定本数
〇地下駅―神奈川 〇地上駅―山梨・長野・岐阜・三重 〇未定―奈良
中間駅の停車は1時間に一本程度
◇最高設計速度 505km/h
◇駆動方式 超伝導磁気浮上(マグレブ)方式
◇所要時間・運賃設定
・東京~名古屋 40分 新幹線運賃+700円
・東京~大阪 67分 同 +1000円
◇建設費(工事費+車両費)全額JR東海負担
・東京~名古屋 5兆4300億円
・東京~大阪 9兆300億円
◇消費電力
・東京~名古屋 ピーク時(片道5本/時) 27万kW
・東京~大阪 ピーク時(片道10本/時)74万kW
◇建設・営業主体 JR東海

【日本と山梨の未来社会のあり方から問う】
以上のように、国家的プロジェクトとして推進がはかられてきましたが、昨年の3.11東日本大震災と福島第一原子力発電所の過酷事故により、これからの日本のあり方が問われています。また、人口減少が問題となる中で、リニア中央新幹線の建設の是非も考え直さなければならないのではないでしょうか。

(1)東日本大震災を教訓とした国づくりから
東日本大震災を機に、全国各地で地震や津波の被害想定や避難計画などの見直しが進んでいます。“天災”である地震や津波は完全に防ぐことはできませんが、十分な備えを欠いたため被害が拡大するのは文字通り“人災”です。「想定外だった」ですまさず、あらゆる可能性と危険性を想定し、被害を最小限に抑え、生命と財産を守る体制を構築することが、今回の大震災から引き出された痛切な教訓です。
東日本大震災は、数十年や数百年に一度といった単位ではなく、数千年単位での検証にもとづいて想定し、備えなければ、生命が守れないことを明白にしました。これまでの「想定」以上の地震は、いつでもどこでも起きることを前提に準備することが重要です。
文部科学省などのチームの研究によれば、首都直下地震の一つである東京湾北部地震の際、これまでの「想定」以上の震度7の強い揺れが都心部で発生する可能性があるといいます。「6強」との想定にもとづく従来の対策を大幅に見直すことが求められます。
静岡県の駿河湾から四国、九州沖に広がる南海トラフ(海溝)を震源とする「東海」「東南海」「南海」連動型の地震も、近い将来発生することが危惧されます。政府の有識者検討会は昨年末、地震規模の想定をM8からM9へ引き上げる見直しを行いました。
大震災で浮き彫りになった課題と教訓を、「安全・安心」な町づくりに反映させることが急がれます。経済効率を優先させ、人口集中と過疎化をすすめたゆがんだまちづくりからの転換が求められます。

(2)福島原発事故をふまえた今後の電力のあり方から
東日本大震災・福島原発事故から1年。原発事故の被害から国民の健康と暮らしを守り原発からの撤退を決断する―政治に求められる課題です
福島第1原発では、いまも溶融した核燃料の状態を確かめるすべもなく、予断できない危険とのたたかいが続いています。事故原因の究明は緒についたばかりで、地震による原発の被害そのものがまったく把握されていません。
内閣府の有識者検討会は3月31日、南海トラフでM9・0の地震が発生した場合に東海から四国・九州の太平洋沿岸が巨大な津波に襲われるとみられるとの推計結果を公表しました。浜岡原発付近で最大21・0メートルの津波が発生するとしており、現在進められている海面からの高さ18メートルの防波壁でも防げないことになります。
原発で重大事故が起き、放射性物質が外部に放出されたら、それを完全に抑える手段がなく、被害は、空間的にどこまでも広がる危険があり、時間的にも将来にわたる危険があり、地域社会の存続すらも危うくするものです。
従来の新幹線の3倍以上の電力を必要とするのがリニア中央新幹線です。原発からすみやかに撤退し、同時並行で自然エネルギー(再生可能エネルギー)の急速な普及をすすめるうえで逆行するものとなりかねません。

(3)将来を見通した交通政策を
「2060年の人口は8674万人に」―国立社会保障人口問題研究所が日本の将来推計人口を発表しました。「社会の将来を考える上で、日本の人口の動きは非常に重要となる。…とくに鉄道などの輸送機関にとっては将来を予測する上で重要なファクターである。」(『鉄道総研の研究者が描く2030年の鉄道』)
東京・名古屋間の開通予定の2027年では1億1910万人、大阪までの開通予定の2045年では1億221万人にまた、減少する見込みです。
同誌によれば、「鉄道をはじめとした社会基盤等に最も大きな影響を与えると考えられる生産年齢人口は、…2030年には約20%の減少(対2005年)、2055年には約45%の減少(同)となっている。これに対して老年人口は一貫して増加傾向にある。2030年では約42%となり、2042年にピークを迎える」「人口減少社会においては、通勤・通学などの交通需要の減少、高齢者対策、労働力の確保など、鉄道に対する影響と要求は大きいと考えられる。また、都市や地方の形態が変化することにより、交通システムのあり方を見直す必要が生じる可能性がある」と指摘しています。
作家・評論家の関川夏央氏は、「大阪まで延伸予定の45年には、人口の3分の1は65歳以上になります。…そんな社会で、東京・大阪間を67分で往来したい人がどれだけいるか。…私には計画の根拠自体が楽観的すぎるように見えます。」(「朝日新聞」4月6日付)と危惧を表明しています。
こうした指摘があるように、未来社会を見通して、それにふさわしい交通政策が求められています。

【2】リニアの安全性や環境問題は大丈夫か

国民・県民のリニアへの不安や問題点は解消されているのでしょうか
「必要か、リニア新幹線」の著者で千葉商科大学大学院客員教授の橋山禮治郎氏は、その著書の中でリニア中央新幹線が成功するためには、①経済性、②技術的信頼性、③環境対応性が必要条件だとして、詳しく検証しています。その一つの技術的信頼に裏付けられた安全性を何より重要として地震、火災、停電、車両故障などの異常事態時に乗客を安全に救出できるかを問題視しています。

(1)電磁場をはじめリニア特有の問題点は
リニア新幹線は、 超電導リニア方式特有の現象への対応が求められています。それは、超低温伝導磁石により発生する強力な変動電磁場の人体への影響、時速500kmの超高速走行に伴う、騒音、振動、微気圧波及び空気振動など周辺生活環境への影響、新幹線の3倍超とみられる消費電力が指摘されています。
交通政策審議会の新幹線小委員会では、「在来型新幹線方式の環境基準と同等の範囲内に収まる見込み」、磁界の影響については「車体への磁気シールドの設置など磁界の低減方策を取ることにより、磁界の影響を国際的なガイドラインを下回る水準に抑制することが可能」としています。
しかし、専門家を含め問題点を指摘する方は多数います。山梨県はかつて、磁場の及ぼす影響から県民の健康と安全を守るためとして「リニア技術関連問題研究協議会」を設立し、山梨大学および山梨医科大学(当時)の教授陣による調査研究が行われ報告書も出ています。それによれば、「現在問題となっているのは極低周波磁場(特に周波数が50~60Hzの磁場)である。…実験の結果からだけでは、磁場は完全に安全であると言う確認はできない。」と注意を喚起しています。さらに、実用化をすすめていくうえで関連設備を含めた電磁場の種類と強度を明らかにし、沿線、乗客への対策、事業者の責務として、情報公開を求めています。
また、橋山教授は、「利用者の信頼を確保するためにも、車内での乗客が床下や外部の側壁から受ける電磁波被爆の強さと被爆時間との相関関係を実証データで公表」すべきと主張しています。
電力問題では、鉄道総合研究所によれば、「鉄道の高速化を進めれば、エネルギー消費が増加するのは避けられない。これは、空気抵抗は速度の二乗に比例するからである。…山梨実験線の走行試験結果から、新幹線『のぞみ』に比較して約三倍の値となった。」としている。また、中央新幹線小委員会での説明では、リニア一列車16両編成で3.5万kW、東京・名古屋間のピーク時が片道5本で27万kW、東京・大阪間のピーク時が片道8本で74万kWとしている。東海道新幹線のピーク時片道13本となれば原発1基分を超える消費量となりかねません。
省エネに逆行していて未来の乗り物になりえるのでしょうか。

(2)大地震対策や長大山岳トンネルの対策は
「南アルプスにおける長大山岳トンネルの掘削については、技術的に見て対応可能な範囲」「これまでの技術的な検討により、地震や大深度地下での火災等の異常時における安全確保について、整備計画段階での対応方針が示されて」いるとして、交通政策審議会の新幹線小委員会では問題なしとしています。
しかし、国鉄技術者OBによる地震と鉄道の安全の検証記録「巨大地震と高速鉄道―新潟県中越地震をふりかえって」によれば、上越新幹線のトンネルで最も被害を受けた魚沼トンネルでは、延長5メートルの区間で最大一辺2メートル、約5トンの覆工コンクリートの崩落塊発生や最大250ミリメートルの路盤コンクリートの隆起など、新幹線トンネルとしては開業以来の地震被害といえると述べている。さらにトンネルは基本的に地震に強いとしつつも、トンネルにとって断層部はアキレス腱である。北伊豆地震を受けた丹那トンネルでは、水平で2.4メートルの変移を紹介し、「活断層と交差するトンネルの完全な補強方法はありえない」と指摘しています。
また、竹内智山梨大学大学院教授は、「南アルプスをトンネルで串刺しにし、糸魚川・静岡構造線と中央構造線という2本の大規模断層を横切るルートです。大地震の際にガイドウェイが壊れることがないのか。電源が喪失して甚大な事故となった福島原発とおなじことにならないか大変心配です」(2011年9月21日付しんぶん「赤旗」。以下(インタビュー記事))と警告しています。さらに、橋山教授は「高齢者や子どもを含む1000人近い乗客が短時間で事故車両から安全に避難することができるか、はなはだ疑問」と避難用立坑が1400メートルもある南アルプスのトンネル内での緊急避難策は机上の空論と批判しています。
以上の点だけでも安全性に大きな問題があると言わざるをえません。

(3)自然破壊・環境破壊は
世界自然遺産の登録をめざしている南アルプスの山々をはじめ、リニア中央新幹線の計画ルート上の県内には、貴重な自然環境が存在しています。
交通政策審議会の新幹線小委員会でも、「沿線の環境に関してより細かな環境調査等を実施し、環境の保全に十分配慮することが必要…。環境影響評価の実施、工事実施段階の環境影響への配慮及び開業後も含めたモニタリングの実施など、その後の事業の各段階において適切な環境配慮措置が行われるべき」としています。
竹内教授は「トンネル掘削によるトンネル川(水流出)や水脈への影響」(インタビュー記事)を危惧しています。すでに実験線のトンネル掘削による河川や水源の枯渇が問題になっています。また、南アルプスのトンネル掘削による膨大な残土処理も大きな課題です。
環境影響評価方法書の県知事意見でも南アルプスを貫通するトンネルによる水脈の枯渇や大量の土砂の問題、電磁波の説明不足などを指摘しています。
成田空港、本四架橋、東京湾横断道路、長良川河口堰、諫早湾干拓、関西国際空港、原発など、完成してみると採算性や環境への悪影響など、大きな問題を残した大事業が少なくないと指摘されています。
リニア中央新幹線が山梨の豊かな自然・環境に甚大な影響をあたえることは間違いありません。

【3】採算性は大丈夫か―税金投入の危険はないのか

JR東海が自己負担で東京・大阪間の整備を行う意思を表明していることを踏まえ、交通政策審議会の中央新幹線小委員会では、中央新幹線の事業特性及びJR東海の事業遂行能力の観点からの審議で、「東海道新幹線の開業以来、安全運行の実績を積み重ねてきており、営業主体としての事業遂行能力を有すると考えられる」と結論付けています。
しかし、同委員会の検証でも、「債務残高は、名古屋開業時(2027年・平成39年)に約4.9兆円、大阪開業時に約4.5兆円」との予測を示しています。これは、JR東海が経営安定の目安とする5兆円以内とは言うものの、かなり危険な計画です。しかもJR東海は、東海道新幹線も加えた中央新幹線の需要予測を、名古屋開業時には13%増、大阪開業時には33%増となると見込んでのものです。
これが過大な予測であるとの専門家の指摘は少なくありません。実際に国土交通省の「鉄道輸送統計年報」によれば、東海道新幹線の「旅客数量」は2005年度を100とすると2010年度は98.1となっており、需要予測の過大さを裏付けています。
鉄道ジャーナリストで『鉄道ジャーナル』元編集長の梅原淳氏は、その著書の『鉄道の未来学』で、超伝導リニアの未来の章で、「いずれ突き当たる財源の壁」と題して、地下40メートルの大深度地下の建設工事、トンネル上端から地表までの高さが1400メートルもある延長20kmの南アルプストンネルや同規模の中央アルプスのトンネルなど巨大断層による難工事、さらに東海道新幹線の大規模改修も加わることなどをあげて、資金計画の困難性を詳しく分析しています。さらに超伝導リニアに由来する液体ヘリウム、消費電力、構造物の鉄筋が磁化しないよう高マンガン鋼を使用する等も高負担をもたらす要因としています。
作家・経済評論家の堺屋太一氏は、「採算性と社会変化を考慮しないと、運航を終えた超音速旅客機コンコルドのように、リニアの技術が死滅するかもしれません」(「朝日」新聞4月6日付)と警告しています。
9兆円を超える新たな投資は、JR東海にとって大きな危険を抱え込むことになり、とくに、3.11東日本大震災以降の日本社会、経済状況からもこの危険を回避できる保障はないと言わざるをえず、「巨額の税金投入」を招く危険性をはらんだものとなりかねません。

【4】地域経済への影響、アクセスや周辺整備の費用は
―山梨にとってマイナス面はないのか

交通政策審議会の新幹線小委員会は、付帯意見の中で、「中央新幹線の整備は、三大都市圏以外の沿線地域においても、三大都市圏とのアクセス利便性を向上させ、地域が主体的かつ戦略的な活性化方策を実施することとあいまって、地域振興に寄与することが期待される。例えば、豊かな自然に恵まれた地域特性を活用し、大都市圏から容易に大自然に触れる機会を提供する自然型観光都市や環境モデル都市などとして、独自性と先進性の高い地域づくりを進める機会をもたらすものと期待される」と期待の言葉を連打しています。
その一方で、「中央新幹線の整備は、…更なる東京一極集中を招く可能性も有している」「中央新幹線が開業すれば地域が活性化するという発想に立つのではなく、中央新幹線の開業を見据え、旅客及び時代のニーズを踏まえ、地域特性を活かした産業や観光の振興など、地域独自の魅力を発揮する地域づくりを戦略的に実施していくことが極めて重要である」とも指摘しています。
プラス効果だけでなくマイナス効果もありうるとし、それは、それぞれの沿線地域の問題だとしています。山梨県立大学の伊藤洋学長も「リニア中央新幹線開通後の山梨の将来像を考える時、相当に気を付けなければならないのが(移動時間短縮で人や企業が大都市圏に吸いとられてしまう)「ストロー現象」だ。東海道新幹線の沿線では、大阪ですらストロー現象があった」(2011年11月7日付「山日」新聞)と危惧を述べています。
駅の整備のあり方についても、「駅のアクセス圏を従来の鉄道駅に比べて格段に拡大することが重要である。このため、在来鉄道との結節性のみならず、高規格道路との結節性やパーク&ライド用の駐車場空間確保の容易さなどにも十分に配慮する必要がある。また、途中駅は、超電導リニア方式の超高速特性から、各地域における空港に類似した役割を担うことが想定され、地域の玄関口としてふさわしい魅力のある駅が整備されることが望まれる」としています。
政治家をはじめ推進勢力が主張するように、県や市町村が空港を新たにつくるような規模でリニア駅の周辺整備やアクセスをすすめれば、財政負担ははかりしれません。
それだけでなく、優良農地がつぶされ、日照問題などの農業への否定的影響、沿線地域とっては騒音や振動、電磁場の影響、日照問題などの諸問題を長期的に影響を受けることになります。こうした問題への説明責任をJR東海はもちろん、山梨県も積極的に行うべきであり、もっと情報公開をすべきです。

【5】建設指示の白紙撤回とともに山梨県政に対してリニア推進からの転換を求めます

横内知事は2012年の2月県議会の所信表明で、整備計画路線に格上げされ、歴史的な転機を迎えたリニア中央新幹線は、まさに、実現に向けて新たな段階に入った。今後は、リニアを活用した県土づくりを進めるため、現在実施中のリニア影響調査を基に、駅周辺やアクセス整備の在り方等について検討を進め、明年度には「リニア活用基本構想」を策定すると述べています。
これまで歴代の県政のもとですすめられてきた、リニア中央新幹線の実現をめざす取り組みから、さらに一歩進んで活用策をどうするかに移ってきているのが現状です。
こうした推進一辺倒では、これまで述べてきたような数々の問題点や県民の不安・疑問に答えられません。
党県委員会は、政府に対してリニア中央新幹線の建設指示の白紙撤回とともに、山梨県政において、リニア推進からの転換を求めます。推進者の知識人等の意見のみによる利活用計画を推し進めるのではなく、リニア中央新幹線の問題点を指摘する知識人・科学者・専門家も加え科学的知見を総結集して再検証すべきです。さらに、中央線や身延線などの在来線の高速化や安全性の向上、路線バスや市町村のコミュニティバス、デマンドバス・タクシーなど交通弱者への支援にもっと力を注ぐことを求めるものです。

以 上

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